Talking about
the attitude of the shop

Mar 05, 2021 / FASHION

「NAKAGAMI」デザイナーと、
店舗デザインを手がけた2人の建築家

ハイコントラストな状態ということですね。
ファッションもコントラストが強いものが組み合わさった時こそ、
センスが表れる瞬間だと思うから。
――谷尻誠

――中神さんが出店の構想を立てられていたのは、いつのタイミングだったですか?

中神 去年の9月ですね。

――お店を出そうと決めた時は、やっぱりお2人にオファーされて。

吉田 オファーというかLINEメッセージ。なんかお店やりたいよ~って(笑)。

中神 お店を出そうと思っていますって、正座しながらLINEしたよ。そしたら谷尻さんからこんな物件あるよって。谷尻さん、最初は代々木上原推しだったんですよ。

――それはなぜだったんですか?

谷尻 現場まで近いから(笑)。まぁ、それは冗談ですけど。

吉田 でも、お店が近くにあってくれたら私たちもうれしいもんね。

谷尻 うん。人におすすめしやすいしね。

中神 ブランドを伝えていくスペースとしてプレスルームの機能をどうしても付けたかったから、出すなら路面店と決めていました。今は広島のオフィスからサンプルをお貸し出しの際に郵送していて、実際のサンプルをメディアの方やスタイリストさんに見てもらえる場所っていうのがなかったので。ものを作ることは広島でできても、ブランドを発信していく場所、機能は東京に必要だと思っていました。でも実際に初めてここを見た時にはそこまでピンとこなかったんですけど。

――そうだったんですね。そこからこの立体的で独特なデザインの空間の話が進んでいったんですか?

中神 契約してすぐに扉を解体したんですよ。その時に、谷尻さんがこのままでいいじゃん、壁がどーんってあったらかっこいいじゃんって。私もかっこいいねってなったけど、扉だけ付けてもらっていいですか? って。

谷尻 コロナのこともあったし、外に店があってもいいんじゃないかなって思っていて。ここに来るまでに、お客さんは寒けりゃダウンを羽織るだろうし、暑けりゃ半袖で来られるわけで、お店に入った瞬間に快適な温度である必要もないというか。もちろん、フィッティングの問題とかいろいろとあるんですけど、でもなんかそういう意思を持ってお店を作ることのほうが、ブランドのスタンスとして重要なんじゃないかなって。特にコロナ以降ということもあって、それって実は強いメッセージになるんじゃないかって話をしましたね。

中神 暑けりゃかき氷を出せばいいんだよって(笑)。仮にそうしたとしても、道路に面していてホコリが舞うからせめてビニールシートを被せようかとか、テントみたにしようかとか、いろんな案があった時に箱を作ったらいいんじゃないって。

吉田 やっぱり、今このタイミングで出店するのは、なかなかないケースじゃないですか。普通にお店を作って普通に営業していてもなんかインパクトもないし、これからもっと価値観が変わる時代だから、どういう形でやっていくのかきちんと考えを提示したほうがいいんじゃないかなって。ちゃんとお店として機能しないといけないのは大前提で。

谷尻 そう、そのファンクションの部分を押さえるうえで、中に建物を建てるということで解決を図りました。

吉田 このビルの1階に、ショーケースをひとつ置くって考えたらどうかなっていうのがあって。そうすると余白ができるわけですよね。これからは外もきちんと売り場になったり、価値を生むような場所になったりすればとずっと思っていました。そうしたらちょっとしたイベントがそこでできたり、洋服も外で販売したり中で販売したり、シチュエーションによって変えることもできるし、使い方に変化が生まれる。季節や時間帯によっても変化を起こせる状態だから、より多様になるんじゃないかと思って。ただお店に来て服を購入するわけではない状況をこの場所で作らないと、わざわざお店を作る意味はあんまりないんじゃないかなって。中にガラスのショーケースを1個作る。それを作ることで余白ができ、そこがプレスルームとの境界にもなるようなデザインを考えたんですよね。

――今さらっとお話いただいていますけど、かなり熟考されているわけですよね?

吉田 いつも考えていますからね。どういう場所があるべきなのかって。やっぱり新しい場所としてスタートしてほしいなっていうのはすごくあったから。だから私も言ったんですよ。1階全体を借りたと思うから、扉が気になるのかもって。この箱を借りた、これが店なんだと考えてみようって。ここのプレスルームにしても、カーテンで中と外を仕切ってという。今までみたいに中と外という完璧できれいなセグメントではなく、ここもよくわからないというか、そこにあるカーテンを開けたら外といえば外じゃないですか。こういうグレーゾーンみたいなところに、いろんな可能性があるのかなってずっと思っていました。

――お店の奥にあるこのプレスルームを中心に考えれば、ガラスケースも外にあると言えますよね。

中神 そうなんです、考え方次第で、さまざまな可能性、価値、体験がそこに生まれる。

吉田 最初、ショーケースみたいな箱は仮設的に作ったほうがいいんじゃないかって考えていたんですけど、ただ単純に粗くて仮設的というよりも、使っているものは建築資材だけど重厚感のあるカーペットとの組み合わせで違和感みたいなものがあると、お洋服のコンセプトにも合うんじゃないかなって。たとえば、カーポートの屋根などに使用されるポリカーボネート製のブラウンの波板を使っているんですけど、その茶色とカーペットの紺という組み合わせもシックな感じがしていいなと。そのシックとかラグジュアリーとは遠い建築資材を組み合わせることによって生まれる違和感が、ブランドの考え方とリンクしたらいいなって。

谷尻 ハイコントラストな状態ということですね。ファッションもコントラストが強いものが組み合わさった時こそ、センスが表れる瞬間だと思うから。

吉田 いろいろな要素が組み合わさっているところが一栄ちゃんの洋服の特徴のひとつで、よさになっている。(谷尻さんが着ているジャケットを指しながら)ここの切り替えしとかが好きだから、お店もコントラストがある空間がいいなと。

――ブランドに合わせた空間デザイン今の時代だからこその新しいアイデア。そこまで建築やデザインに詳しいけではないですけど、お2人の話に引き込まれました(笑)。ECサイトが当たり前の今、実店舗を持たれる意味合いというのが、より鮮明になってきているように思っています。

吉田 そうですよね。だからこそ、機能性や利便性においての場所はもういらないのかなと思っていて。その一方で、このお店やブランドがどういうものなのか、ストーリーであったりそのものをイメージさせるための場所だったりというのは、私はすごく大事だと考えています。こういうショップを持っているその人の考えを理解して、もっと洋服を好きになるとか、そこでこういうイベントがある、そこで誰かと出会うというのもリアルな場じゃないとできないことだから。やっぱり体験ということと、世界観や印象を作るための装置にもなるのかなと思いますね。

中神 今までは取り扱ってくださっているお店のコンセプトに合わせてアイテムをセレクトしていただいていました。コレクションは、そのシーズンごとのテーマや考えを持ってすべてのアイテム作っているのに、それを全部手に取って見ていただける空間がなくて。

――面ではなく点でしか見られないジレンマと言いますか

中神 そう。全部を見てもらえる場所と、それを伝える場所としてプレスルームもほしいという思いが、ここがあることによって叶う。さっき言われたECも実店舗と連動した立体的な動きができる。ここがあると、売る、伝える、考えるというのがひとまとめにできるというか。そして私が広島からここに来た時には、みんなが集まってくれる。

谷尻 売ることが目的だったお店が、伝える方向へとどんどん変わっていくと思うんですよね。別にお店で買わなくてもいいという概念さえ、正しい社会になる可能性があるわけじゃないですか。その時にオンラインにしかないものと、それをオンラインで売れることがわかっていても、ちゃんとそういった実店舗を持つということに意味が生まれると思うんですよね。新しい価値観が出てきた時、社会ってその反対側にある価値観を否定するはずなんですよ。たとえば、本というアナログのものにデジタルが出てきた時に、やっぱりこれからの時代はデジタルでアナログじゃないよねと、まず先にあったほうを否定するじゃないですか。でも本当はそうじゃなくて、それを見直すタイミングだと思うんですよね。本というアナログがどうあるべきかと。ファッションも実店舗がなくてもいいよねっていう価値観じゃなくて、新たにこれを作ったことによって過去のオンラインどうする? とか、逆に実店舗をどうするかとかを見直すべき一番いいタイミングだと思います。

――優劣をつけることなく比較し、見直すことは一番健全かもしれないですね。どっちが正解、不正解ではなくて。

谷尻 そうです。それによってそれぞれの価値が顕在化すると思うので。

吉田 そう、だからこそここも外にするべきだとか、普通のお店を作ってもあんまり意味がないんじゃないかなって。今このタイミングに何を得られるの? っていうのは考えていますね。

――売ることも大事ですが、それ以上に伝えることが大事だということですね

谷尻 はい。[メルセデス ミー]なんかもクルマを売らない場所を作ったことによって、結果的に売上が上がっているわけじゃないですか。本当にお客さんにいいものを伝えるために徹底してやっている。そういうことってものを伝える時の本質的なことだと思うし、だからこそファンが付いて結果的にそこにお客さんが足を運ぶ。

――ファッションやクルマの話に限らず、今後もっと顕在化されそうです。

谷尻 じゃないと価値化していかないですからね。

中神 深いお話ですけど、肝に銘じながら頑張ります!

Pick up from 2021 SPRING / SUMMER Collection

タンクトップ¥20,900
カットソー生地とハンドプリーツを施したチュール素材の大胆な切り替え。光沢感のある箔プリントによって、シーズンテーマを象徴するバーコードモチーフの柄をデザイン。

ニット¥31,900
極細の特殊な糸で立体的なシルエットを編み立てているニットプルオーバー。インナーにTシャツやタンクトップを合わせて透けさせることで、素材の繊細さが一層際立って見える。

チュールスカート¥34,100
手仕事特有のランダムなプリーツにより、同じカラーナンバー入りのプリントでも一点ずつ表情が異なる。ウエストにはタフタ生地を使い、スポーティな要素も加えている。

NAKAGAMI nakameguro
以前にスキー用品店が入っていたテナントをスケルトンにし、そこへポリカーボネート製波板やレースウェイ(電路支持材)といった建築資材とガラス扉を組み合わせたボックスを設置。ガラスケースともいえる箱状の空間に、“PROTECT ME from the Big Brother”をシーズンテーマとした2021年春夏コレクションが整然と並ぶ。

SHOP DATA

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