MY CULTURE
Apr 01, 2024 / CULTURE
スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー
マイスタイルを謳歌する“INDEPENDENT GIRL”に、自身のアイデンティティに影響を与えたカルチャーについて聞く連載コンテンツ。28回目の今回は、ビストロ「Cyōdo」の店主·山口萌菜さんに本と映画の話を伺った。
PHOTO_Yu Inohara
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)
PROFILE
Mona Yamaguchi
何度でも立ち返る
憧れとときめきのパリ
あの頃の感覚を呼び戻す原点
料理エッセイの元祖ともいえる『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』との出合いは、山口さんにとって料理の仕事を志すきっかけとなるほど大きなものだったという。
「この本と出合ったのは高校生の頃。ピアニストになることだけを考えてきた人生に、料理に関わる仕事に就くという選択肢を与えてくれました。日本で暮らしているとクラシックなフランス料理を食べる機会なんて子供の頃はなくって、この本に出てくるフランス料理の数々から『こんな料理があるのか』とワクワクしたことを覚えています。例えば、オムレツはシンプルな手順なのに、日本の家庭ではなかなか食卓にあがらない。だけど、作ろうと思えば台所にある食材で作ることができる。そういった部分にロマンを感じて、この本に出てくるフランス料理にどんどんハマっていきました」
「この本を開くたびに初めて読んだあの頃の感覚が戻ってくるような気がします。このなかではパリのカフェの話もたくさん書かれているんですよ。日本とは違ってパリのカフェは、本格的なお料理からコーヒーやワイン、スイーツまでを揃えていて、街の人たちがいろいろな用途で集える場所。『Cyōdo』もそういう存在でありたいと思っているので、定期的に読み返して目指していたものとブレていないかを確認するようにしています」
好きを詰め込んだ世界にひと目惚れ
幼少期にフランスに何度か訪れたことがあり、その影響で今でもフランスには特別な思い入れがあるという山口さん。そんなフランスを舞台に、クラフト感たっぷりにロマンチックな世界を表現した『ムード・インディゴ~うたかたの日々~』は自身の好きが詰まった作品として魅力を語ってくれた。
「夢のようなアイデアが日常の中に投影されていて、美術館にいるような気持ちで観ることのできる作品。なかでも、主人公の発明した音の重なりや強弱によってどんどん変化をしながらカクテルが出来上がるという“カクテルピアノ”がお気に入り。アーティストの友人が16年間クラシックピアノを学び、現在は料理の仕事をしている私のイメージと重ね合わせて、この装置をモチーフにしたコラージュを名刺用に作ってくれて。より一層思い出深い作品になりました」
「作品の中ではこれまで私を形作ってきた音楽やお料理といった要素が、印象的に表現されていて親しみを覚えます。夢と現実の境がわからなくなるような摩訶不思議な世界の中で出される料理の数々に、『どんな味がするんだろう』と胸が高鳴ったり、劇中で流れるジャズが心地よくて、お店のBGMもサントラからお気に入りの楽曲をピックアップして流すことも。ヒロインのオドレイ·トトゥが着こなす色とりどりのファッションも、どれもかわいくって真似したくなるものばかりです」
文化の生まれる場所を創りたい
本と映画、2つの作品に共通するのは、フランスの人々のライフスタイルや文化が垣間見えるということ。昨年、個人的にパリを訪れたという彼女が感じた日本との違いやその魅力について深掘りしてみた。
「私のなかでフランスは、食べることやワインを飲むこと、話すことといったカフェやレストランにある文化を愛している人が多いという印象があります。もちろん、食文化はほかにも素晴らしい国はたくさんあるし、日本の繊細な味つけやサービスはとても優れていて魅力だと思うけれど、また行きたいと思うのはフランスなんですよね。多分そこには食やアートに対して、お店側とお客さん側双方の暗黙の了解や共通の価値観が育まれているからこそなんだろうなと。日常ではありつつも、おしゃれをしてその空間で過ごすことを楽しんだり、アートや音楽の話をする人が自然と集まって文化が生まれていく。そんな場所を『Cyōdo』でも創っていけたらと思っています」