Finding a role in Japan

with KANAKO SAKAI / Talk Session

Feb 22, 2024 / FASHION

それぞれが想う“日本”と
この地での自らの“役割”

クリーンで都会的なムードのなかに、日本の伝統技術を取り入れる〈KANAKO SAKAI〉。異なるバックグラウンドを持つ2名のモデルを起用し、〈KANAKO SAKAI〉の新作をまとったファッションシューティングとデザイナーのサカイ カナコさんを含めた3名のトークセッションを実施。日本と異国の地で生活したうえで、なぜ今、日本をベースに活動しているのか、それぞれがこの地で何を発信したいのか。周囲に流されず、一人ひとりが自身の大切なものを見直すきっかけとなれば嬉しい。

FLIM_Kouki Hirano
EDIT&TEXT_Maria Ito(PERK)

Profile

サカイ カナコ/〈KANAKO SAKAI〉デザイナー
4年間のニューヨーク生活を経て、2021年より〈KANAKO SAKAI〉をスタート。日本の伝統技術をコレクションに落とし込み、世界に発信している。
@kanakosakai_official

Amity/モデル
18年間暮らしたアメリカを離れ、日本を拠点に活躍するモデル。ノンバイナリーは彼女自身の考え方だけでなく、普段のファッションにも表れている。
@amitymiyabi

KIEN/モデル
中国で生まれ18年間を同国で過ごし、日本へ留学。通っていた大学では心理学を専攻。モデルのほかにビジュアルアーティストとしても活動中。
@kienryuu

私たちが知っている“日本”と
これまで知らなかった“日本”

 デザイナーのサカイ カナコさんと一緒に考えた今回の企画。自身のスタイルを確立するAmityさん、KIENさんの生き方に魅力を感じファッションシューティングだけでなく、鼎談も実現した。ルーツは違うけれど、日本という地で、ファッションに精通する彼女たちは、トークセッションでどんな化学反応を繰り広げてくれるのだろう。

サカイ カナコ(以下:サカイ)「〈KANAKO SAKAI〉を始めようと思った時に、母国でブランドの軸を固めたいと思い、日本をベースにしています。私は日本人だからってところが大きいけど、なぜ2人はここで活動しているのか気になります」

Amity「最初は日本に住むことに憧れがあって、大学での留学を機に仕事も始めたんですけど、自分のアイデンティティが育っていくと同時に日本に課題を感じ始めました。アメリカを離れるまでは男の子として生きてきて、好きか好きじゃないかは関係なく、ファッションはジェンダーの表現として楽しんでいて、ある意味では窮屈に感じていたかもしれません。日本に来て、アバンギャルドなファッションに惹かれて、性別を問わないスタイルが新鮮でした。自分は男性でも女性でもないっていうことを、ファッションを通して表現できるんだって。日本に住んでなかったら、自分がノンバイナリーだと気づけなかったかもと思います」

KIEN「日本に住むきっかけになったのは、アニメや漫画。特に『NARUTO』が好きで。日本人は日常生活ではしっかり社会の枠組みのなかで生きているんだけど、内に秘めた面白い発想をすべて二次元にぶち込んでいる気がして。アニメや漫画は日本人のマインドを投影しているように感じているんですけど、その矛盾がすごく面白いですね。ジェンダーに対しては、いいとか悪いとかではなくて、物事を曖昧にしちゃう一面があったり……。でもそれが、私にとってはすごく自由に感じて、好き」

サカイ「なるほど。私が見てきた日本とはまた違った視点だからすごく興味深い。2人は芯がありつつ、でも肩の力が抜けてて、風っぽいっていうか、素敵です」

 日本人はおしとやかで控えめな性格といったイメージが根強く残っているかもしれないが、内側には悶々とした感情を秘めている人が多く、実はもっといろんな可能性が潜んでいるのかもしれない。

それぞれが“役割”を見出し
“自由”という意味に共鳴する

 自分のスタンスに嘘をつかずに貫く姿勢には、誰しもが魅力を感じるもの。彼女たちが、“日本”で発信していきたいことを聞いた。

サカイ「人間って生活するうえで必ず服を着ていて、服を着ることで自分の気持ちも変化するし、相手に対する印象も違うからすごく面白い。ニューヨークに留学した時に、インパーフェクションに美を見出すと発言した自分に対して、インド出身のクラスメイトは美とは左右対称でなくてはいけないと言っていて。の基準はアイデンティティによって異なることに気がついたし、今まで特別だと思っていなかった日本文化の魅力を再認識した機会でした。日本はファッションの先進国の一つではあるけれど、モードの歴史でいうとアウトサイダーになるから、日本の強みや、日本だからこそできることをもっと知ってほしいと思ってブランドをやってます。2人は日本での自分の“役割”ってなんだと思いますか?」

Amity「私は日本に住んで、LGBTQやジェンダーマイノリティについてこれから成長していく必要があるなと感じたので、自分の経験をシェアすることで役に立てることがあればなって。ファッション業界でジェンダーレスを広めてくれる流れがあると思うんですけど、とはいえ女性性、男性性をすごく強調させたものが多くて違和感があるんです。ジェンダーレスな人だけが着られるものじゃなくて、もっとファッションは“自由”であるべき。この歳になって、“自由”は周りが作るものじゃなくて、自分が作るものなんだって気がついて、自分から変えていこうって思っています」

サカイ「本当のジェンダーレスって、そもそもの男と女っていう概念を取っ払って、もっとフラットにした状態。さっき言ってくれた通り、いいと思ったことを“自由”に選択ができることですよね。KIENさんはどうですか?」

KIEN「ちょっと似てるんですけど、中国にいた頃は、周りは男の子ばっかりで、夏は暑ければ裸になったりして、特に性を意識していなかった。日本に来てから自分は女性で、女性のボディで生まれたっていう概念が定着しました。でもファッションにおいては、女性らしさや男性らしさは関係なくて、他人から評価されるものではなく、自分が満足するものを着るだけだと思っています。『郷に入れば郷に従え』って言葉があると思うんですけど、そんな必要もなくて、服も髪も、脇毛すらもファッションになれるし、型を破る“役割”ができたらって思っています。ただ、みんなが他人のチョイスを批判しないってことがとても大事」

サカイ「そうですよね、本当にそう思う。2人のことを今日より深く知れて、〈KANAKO SAKAI〉の理想とする人物像とリンクすることが多くて話せてよかった」

 じんわりと意見が交わっていき、お互いをよりリスペクトし合っていた3人。この鼎談とファッションシューティングを通して、多角的に〈KANAKO SAKAI〉というブランドと彼女たちの信念を感じ取ってほしい。

How did the brand feel

「カナコさんの服を着た時に自分の心が動くのを感じ、
何かそういった力があると思う。
仏教の理念で“幽玄”という言葉が好きなんですけど、
それが詰まっているブランドだなと感じました」
(Amity)


「藍染めで作られたシャツを着させてもらった時に、
日本の伝統技術なのに中国の陶器を連想させられて。
一瞬自分のルーツを感じて、不思議な感覚でした。
古いものと新しいものが混ざり合って、
独自に変化していくブランドだなと思います」
(KIEN)