MY CULTURE

#27 吉田怜香/〈TODAYFUL〉デザイナー

Mar 01, 2024 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

マイスタイルを謳歌する“INDEPENDENT GIRL”に、自身のアイデンティティに影響を与えたカルチャーについて聞く連載コンテンツが3年ぶりに復活! 今回は〈TODAYFUL〉の吉田怜香さんに映画と本、2つの作品を紹介してもらった。

PHOTO_Yoko Tagawa
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

Reika Yoshida

吉田怜香
兵庫県生まれ。コンセプトショップ「Life’s」を東京、大阪、福岡で展開するほか、ファッションブランド〈TODAYFUL〉のデザインを手がける。プライベートでは一児の母であり、漫画好き。
@reikayoshida_
@todayful_
@lifes_store

人間らしさの詰まった
温かな家族の物語

自分に嘘なく生きていきたい

 まず吉田さんが紹介してくれたのは、2016年公開の日本映画『湯を沸かすほどの熱い愛』。普段は映画よりも漫画派と語る彼女だが、本作は何度も繰り返し鑑賞しているほど強く胸に響いたという。
「きっかけは大好きな俳優のオダギリジョーさんが出演されていたことから。劇中では家族を置いて蒸発してしまうだらしのない父親を演じているのですが、そんな仕方のないキャラクターも人間味に溢れていて色気があるんですよね。実生活でも友人だったりのそういったダメな側面に安心したり、愛おしさを覚えることが多いです。自身が子供を産んだことで、この作品に対する見方にも変化が出てきました。杉咲花ちゃん演じる娘の安澄が学校でいじめに立ち向かうシーンは涙なしでは観られないですし、母である双葉のまっすぐな行動力にも勇気をもらっています。彼女のように自分の喜怒哀楽にも素直でいられる人って魅力的だし、私も自分に嘘なく生きていきたい。それがいちばん幸せなんですよ、自分も周りも結果的に。自分に我慢させたり、自分の気持ちに嘘をついたりしているとなんだかんだモヤモヤしてストレスが溜まったりしちゃうから。自分が生きやすいようにいるということを私は昔から胸に留めて、生きやすいような環境を自ら作るようにしています」

『湯を沸かすほどの熱い愛』
突然の余命宣告を受けた銭湯の女主人が、愛する家族のために過酷な現実を受け止め、死ぬ前にやっておくべき4つのことを残りの命をかけて実行してゆくヒューマンドラマ。血縁という枠に捉われない新たな家族の形を描き、第40回日本アカデミー賞女優賞をはじめ、数多くの映画賞を受賞した号泣必至の感動作。

監督·脚本:中野量太 出演:宮沢りえ、杉咲花、オダギリジョー、松坂桃李ほか
Blu-ray通常版¥5,280、DVD通常版¥4,180
発売元:クロックワークス
販売元:TCエンタテインメント
©2016『湯を沸かすほどの熱い愛』製作委員会

日常のなかにこそ共感が生まれる

 『しーちゃん』が書籍化される前から、作者であるこつばんさんの大ファンだったという吉田さん。シンプルながらも、愛に溢れた親子の日常のやりとりから受けた影響について教えてもらった。
「『しーちゃん』はそれまで自分の母性をあまり感じたことのなかった私に、『あ、いつか子供が欲しいな』と思えるきっかけを与えてくれた一冊。しーちゃんがかわいいというのはもちろんですが、私は作者のこつばんさんのファンなんです。日常のふとした会話や、ふとした場面のなかにある面白さに気付けるところがこつばんさんの魅力。特別な瞬間よりも、日常にこそ共感が生まれると思うんですよね。とりわけ私が好きなのは、しーちゃんとママが仲直りするシーン。しーちゃんはママが大好きで甘えん坊なんだけど、こつばんさんがそんなしーちゃんをめいっぱい愛していて、甘えさせてあげているからこそ、こんな素直な子になるんだろうなって。イラストには描かれていない2人のやりとりの背景をいつも想像しています」

『しーちゃん』こつばん
イラストレーターとして活躍する著者が、娘·しーちゃんとの何げないけれど癒される日常をほっこりかわいいイラストと共にInstagram上に綴った育児絵日記を書籍化。幼いながらもシュールな言動をするしーちゃんと、温かくて優しいママのやりとりにくすっと笑えて、胸がぎゅっとなること間違いなし。

発行元:ワニブックス

仕事も子育ても自分に正直に

 吉田さんの手がける「Life’s」と〈TODAYFUL〉は、今年で10周年を迎える。年数を重ねるごとに多くのファンを魅了し続けているが、彼女のなかではある人からの言葉が変わらずに軸となっているという。
「仕事で上京することが決まった23歳の頃、自分が尊敬する先輩から『生きたいように生きたらいいじゃん』と声をかけてもらったことがあって、それでいいんだと思えたらすごく気が楽になったんです。そういう意味では、モヤモヤを抱えながら働いていた環境を一新して、自分に正直に今の会社を立ち上げてよかったとも思うし、これからもこの感じでやれたらと思っています。娘との向き合い方も同じ。子供に対して重くなったり依存したりすることはしたくないので、“育てる”というよりは、愛情はたっぷりと注ぎつつ、お互い楽しく頑張ろうというスタンスでいます。だからか、育児においてもストレスはあまりないし、どちらかというと自分本位で楽しませてもらっている感覚。例えば何をして遊ぶかという時も、『娘のために公園に連れて行ってあげる』というふうな“あなたのために”の意識では、娘にとっても迷惑な話だろうなと。だったら、友達を誘って昼から一緒にカラオケに行って、娘の好きなアンパンマンの曲も一緒に歌いながら過ごす方が2人とも気楽にいられると思うんです。私も私で、『今日はママに付き合ってくれてありがとう』って素直に思える。その距離感が心地いいんです」