My culture_FILM
Jun 30, 2020 / CULTURE
若手映像作家が最も魅せられた
アメリカ人監督によるフィルムノワール
“インディペンデント映画の父”と称されるジョン・カサヴェテス監督の不朽の名作。ストリップクラブのオーナー、コズモ・ヴィテリの生き様を哀愁たっぷりに描いた。
映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回は、若手映像作家やアーティストとして注目を集めるUMMMI.さんが登場。「大好きな映画トップ10に入ります」と言う、『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』の魅力を語ってくれました。
EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)
東京藝大卒業後にイギリスへ留学。多くの映像作品を手がける一方で、初めて制作した長編映画が「ロッテルダム国際映画祭2019」に出品されるなど、その若き才能を遺憾なく発揮している。そんな彼女が勧める『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』は、低予算で制作された1976年のアメリカ映画。監督の人間性が色濃く反映されたこの作品に、彼女は強烈に惹かれたという。
「ジョン・カサヴェテス監督がめちゃくちゃ好きで、いろいろ観ているうちにこの作品と出合いました。彼はもともとインディペンデント映画を撮っていて。新聞で素人の役者を募集したり、自分の奥さんを作品に出演させたりと、予算のないなかあらゆる手を尽くして映画を制作してきた方なんです。彼の人生と映画づくりは、すごく密接な関係にあるように感じます」
今回紹介する『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』は、ストリップショーをウリにしたクラブ[クレイジー・ホース]のオーナーであるコズモが主人公。借金を返済したばかりにも関わらず、彼はポーカーに大負けしてマフィアに借金を作ってしまう。支払うことのできないコズモに、マフィアは借金の帳消しを条件に暗黒街のボス、チャイニーズ・ブッキーの殺害計画を持ちかける。何とか実行したコズモだったが、口封じのため逆に命を狙われ銃撃されるというストーリーだ。
「この作品の内容と映画制作の仕事は、どこか重なる部分があるように思います。自分がどれだけ映画づくりに励んでも、他人からはくだらないものを作っているように見えるだけかもしれない。コズモのストリップクラブも決して大きなビジネスではないけれど、彼は命を懸けてそこを守り抜こうとする。大したことのない何かに、命を懸けられるような人がこの世界にいること。その事実に、観るたび元気づけられます」
また、銃で撃たれたコズモがストリップクラブの舞台に立ち、挨拶をするラストシーンがたまらなく好きだという。
「コズモは特に気の利いたことを言うわけではないんです。あろうことかお客さんに、『早く女を出せ』とヤジを飛ばされる。命懸けで守っている場所なのに散々ですよね。アタシは、そこにこそロマンを感じます。コズモは情けない男だとは思うけど、人生を懸けた唯一の財産であるストリップクラブを何よりも大切に思っている。借金を背負って、さらに人を殺してまで大事にしたいものってなかなかないじゃないですか。完全に愛。そんな場所を持っている彼は強い反面、そこが弱点でもあると思います」
10代の頃に観たアートシネマの影響で、映画制作を始めたUMMMI.さん。映画に対する想いを尋ねてみた。「中学の時にアートシネマを観て、少ない予算で作るインディペンデント映画なら、アタシにも撮れそうだと思ったんです。『自分でもできるかもしれない』って、最強の感覚ですよね。そういう気持ちにさせてくれるものって意外と少ないから……。その時の感覚が、今の自分に繋がっているように感じます。だけどアタシは映画がすべてというより、人との時間を大切にしたい。どれだけいい映画を撮っても、大切な人たちから愛されないと意味がないと思います。映画制作は、周りの才能ある人々が関わってくれているからこそ成り立つ作業です。映画を撮り始めた当初、アタシも自分よがりになって人を傷つけてしまったことがあるからこそ、『映画を作ることが何よりも大事』という映画至上主義の考え方ではなく、誰もが傷つくことがないように常に注意を払い、感謝を忘れずに制作していくことが何よりも重要だなと思います。そして、映画制作や映画館といった映画にまつわる現場に蔓延しているパワハラ的な側面に対して、二度とそういったことが起こらないように、自戒を込めて声をあげていきたいです」
これからの活動に関しては、「この夏ロンドンから帰国したタイミングで、短編映画を撮ろうと思っています。ある小説をもとに制作するほかは、まだ何も決まってないのですが……。頑張ります」と白い歯を見せる。“私にもできるかも”という最強の感覚を頼りに、好きなことを追求し続けるUMMMI.さん。自分の可能性を信じて突き進めば、いつか道は開けるはず。そう思わずにはいられないほど、キラキラと輝いて見えた。
PROFILE
UMMMI.
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