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May 22, 2020 / CULTURE

カップルで観るのはキケンかも!?
リアルな心情を描写した北欧サスペンス

『フレンチアルプスで起きたこと』
監督/リューベン・オストルンド 出演/ヨハネス・バー・クンケ、リサ・ロブン・コングスリほか
フレンチアルプスを訪れた4人家族(夫:トマス、妻:エバ、姉:ヴィラ、弟:ハリー)の揺れ動く感情を描いたスウェーデン映画。オデッサエンタテインメントよりDVDも発売中。

映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。第4回は劇団「贅沢貧乏」を主宰し、劇作家や演出家のほか、女優としても活躍する山田由梨さんにおすすめの映画を伺いました。

EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)

 山田さんに挙げてもらった『フレンチアルプスで起きたこと』は、2014年に公開されたサスペンス映画。フレンチアルプスへバカンスに訪れたスウェーデン人一家の目の前で、突然雪崩が発生。人々は逃げ惑いながらも大事には至らず、何事もなかったかのようにその場は活気を取り戻す。しかし自分と子供を守ろうとせず、一人で逃げてしまった夫・トマスの行動に妻・エバは不信感を抱き、家族の関係に小さな不協和音が……。バラバラになってしまった心は、再び一つになることができるのか? そんな“予期せぬ事態が起こった時、人はどんな行動を取るのか”をテーマにした作品。山田さんは友人の勧めで鑑賞し、衝撃を受けたと言う。
「2年ほど前に観て以来、強烈に印象に残っている映画です。私は単純な言葉では言い尽くせないような感情を切り取ったシーンが好きで。この作品には、全体を通して人間の複雑な心の動きが巧みに描かれているんです。初めて見た時は、その完成度の高さと緻密な心理描写に感動すら覚えました」
 夫婦の心の葛藤とそれを取り巻く人々の心情を、見事に表現した『フレンチアルプスで起きたこと』。果たして、その魅力はどんなところにあるのか。
「信頼している人の言動に戸惑いを感じたとしても、その場で言えないことって結構多いですよね。瞬発的に怒ることって意外と難しくて、時間が経ってから『あれはやっぱりおかしい!』と苛立つことがほとんど。この作品では家族を置いて一人で逃げてしまったトマスに対し、エバは不信感を覚えつつも、最初は何も言わず自分の気持ちに蓋をする。だけど逃げた事実を頑なに否定する夫への不信感がどんどん募り、やがて埋めようのない心の距離が生まれてしまう。そんな細かい心理描写が、とてもリアルで興味深いんです。今までの信頼や関係性なんて、些細なことで一気に崩れてしまうんだと改めて気付かされました」

 また、どの登場人物の立場でストーリーを追うかによってさまざまな意見が生じる点も、この作品の面白さなのだと語る。
「危険を察して反射的に逃げてしまうのは動物の本能だから、トマスの行動も理解はできるんです。だけど、私は彼が一切非を認めないことにムカついちゃう(笑)。事実に背を向けて『俺は逃げていない』と言い張ったり、いい顔をしようとしたり。自分の弱さを認められない男のプライドなのかな。“男らしくありたい”という理想に反した行動を、自分自身でどうしても受け入れられなかったんでしょうね。最終的に、トマスは家族の前で大泣きしちゃって。すごく哀れなんだけど、なんだか憎みきれない。男性からすると、エバが重く考え過ぎていると思う人もいるかもしれません。どの視点で観るかによって、いろんな考え方ができるところに惹かれますね」

 予告編では、「カップルで観てはいけない映画」と評されていたこちら。彼女はむしろカップルで観てこそ、その味わいが増すのではと話す。
「ぜひカップルで観て、どう感じるかお互い議論してほしいな。男女でかなり意見が分かれる作品だと思うので、付き合いたての2人には少し危険かもしれませんが……(笑)」
 そのほか、「北欧映画ならではの洗練された世界観も見どころ。同じ監督の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』という作品も必見です」と山田さん。併せて鑑賞してみて!

PROFILE

YURI YAMADA

山田由梨
東京生まれ。劇作家、演出家、俳優。劇団「贅沢貧乏」主宰。2012年の旗揚げ以降、全作品の劇作・演出を務める。[東京芸術劇場]で上演した『フィクション・シティー』(17年)、『ミクスチュア』(19年)では、“演劇界の芥川賞”と称される岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされる。また、自身も役者として活動するほか、ドラマ脚本や小説・エッセイの連載など、活動の場を多岐に広げている。
www.zeitakubinbou.com
Instagram_@yamadayuri_v
贅沢貧乏Instagram_@zeitaku_binbou

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