PERK

Until now,
now and in the future

「muller of yoshiokubo」Director
SHINOBU UCHIDA

October 12, 2020 / FASHION

クリエイターが考える
これまでと今、これからのこと

今と先のこと、その両方を見据えながら表現を続けるファッションデザイナーやクリエイター。そんな彼女たちに日々のクリエイティブのこと、そして今シーズンとこれからのファッションについて話を伺った。ニューノーマルな日常をポジティブに過ごし、今までと変わらず真摯にファッションと向き合う3人の言葉。

PHOTO_Yoko Tagawa
EDIT&TEXT_Yoshio Horikawa(PERK)

PROFILE

SHINOBU UCHIDA

内田志乃婦
横浜生まれ。大学卒業後、販売員を経てNYへわたり現地のPRとセールスを経験。帰国後は東京のショールームに勤務し、主にセールスを担当。2007年春夏より現職。20年春夏には“Dress for daily life”というブランドのコンセプトにして原点に立ち返り、黒のアイテムのみで構成する「BLK line(ブラックライン)」をローンチ。2児の娘を持つ母でもある。
Instagram_@mullerofyoshiokubo_official
@uchidashinobu

マテリアルが生きる削ぎ落した美しさ。
ただ単にシンプルにつくるのではなく、
「muller」っぽいよねと感じてもらえたら。

――もともと「yoshiokubo」でもウィメンズを展開されていたなかで、「muller of yoshiokubo」という新しいブランドをスタートされたんですよね。

そうですね。久保(※「yoshiokubo」のデザイナー久保嘉男氏)自身がオートクチュールのドレスをつくっていて、レディースを手がけたいという思いもありました。「yoshiokubo」というレーベルのなかで、7割くらいがメンズ、3割くらいがレディースといったバランスでスタートしたんですが、ちょっとメンズ色が強いかなという部分もあって。レディースならではのエレガントさを融合しながら、この先同じレーベルで伝えていくのは少し難しいのかなと感じ、「yoshiokubo」の立ち上げより2年後の2007年春夏のコレクションから完全に分けて発表したのが「muller」の始まりになります。もっと日常的にドレスを着てほしいというコンセプトを設けて。

―― 「yoshiokubo」は久保さん、「muller」のほうは内田さんと、完全にデザインを分けられているんですか?

「muller」は私がメインで動いてはいますけど、パターンや技術面は久保から教わったことももちろんたくさんあって。学んだことでいうと、特に工場とのやり取りが一番大きかったと思うんですけど、ものをつくる過程を知れたことが私の基盤になっています。同じパターンで服をつくったとしても、やっぱり素材感だったり生地の重さだったりで、完成するものが全く変わってくるんですよね。失敗を繰り返しながらつくっていますけど、現場を見ること、理解することって本当に大事だなと思います。例えば、漠然とベージュ系でお願いしますと言っても、何百種類もあるなかからこの色をという具体的な指示だったり、ひとつの工場に各色全部あるわけではなく、生地に織り込んで刺していくことによって見え方や光り方が変わったりもするので、やっぱりつくってくださる方との距離感というのはすごく大切で。賭けてくれたというか、一緒にやってあげよう、この子を育ててあげようと思ってくださる方々に出会えたのは大きいですね。今、80いくつのおばあちゃんがいらっしゃるんですけど、まだ右も左もわからない23、4歳の頃にこの方と出会って。当時は若いし知識がないことで簡単にあしらわれることも多かったんですけど、この方は一つひとつ丁寧に教えてくださって歩み寄ってくれたんですよね。今も現役で、すごいですよね。世田谷にいらっしゃって、郵送だと間に合わなかったら自転車で届けようかって言ってくれるような元気で優しいおばあちゃんなんです。

――内田さんが工場の方々に支えられているのがわかる、いいお話ですね。「muller」がスタートしてちょうど15年ということですが、内田さんの服づくりの根幹というか、何を一番大事にされているんでしょうか?

そうですね、やっぱりオリジナリティとクオリティを追求することが一番大切なことだなと思っていて。オリジナリティって人それぞれあると思うんですけど、今まで自分が見て、感じてきたことや経験値を踏まえた蓄えって大きな財産だと思うんですね。海外で生活したことだったりとか、そこで見たファッションだったりとか、そういう自分のフィルター、「muller」のフィルターを通して発信していくことの積み重ねというか。ファッションの始まりって若干の違和感とか、そういうこともあったりすると思うんですけど、そのなかで自分のフィルターを通してこれがいけるという判断じゃないですけど、時代を読み取ることがやっぱり一番大切なのかなと思いますね。それとこの1シーズン前の20年春夏からなんですけど、「BLK line(ブラックライン)」というのを新たに始めました。もともと「muller」の原点として、“Dress for daily life”という日常からドレスを、というコンセプトでスタートして15年が経って、そこから派生するイメージでドレスに合うコートやドレスに合うトップスなどをつくっています。これまでもいろいろと展開を広げてはきたんですけど、「muller」ってなんだろう、「muller」っぽさって何? 改めてと考えた時に、原点であるドレスを切り抜いて、それも黒、ブラックのみで提案するというのに取り組んでいる最中です。今着たいドレスじゃないですけど、私たちが提案したいドレスというのにフォーカスした形で、ルックも分けようと。「muller」のほうは、今季は“Less&More.”をテーマにしていますが、何かを削ぎ落して何かをプラスするみたいな。今、世の中的にシンプルなものの需要が増えているなかで、どう削ぎ落しながら自分たちらしさみたいなものをシルエットで表現したり、ドレープ感をどう持っていくかによっての見え方みたいなのを出せていければなって。原点に立ち返りながらテクスチャとか、自分が好きな部分も意識しながら。私、生地がすごい好きで、生地選びからコレクションの構想をスタートすることが多いんですよ。

――それこそが、「muller」のオリジナリティというわけですね。内田さんの言う「『muller』っぽさ」。

はい。特にここ何年か、マテリアルが生きる削ぎ落した美しさは追い求めていますね。もちろん、デザインが完結したうえで商品になるので、ただ単にシンプルにつくるのではなく、お客さんが手に取ってくださった時に「muller」っぽいよねと感じてもらえたらなっていうので、やっぱり時代の空気感ってすごく大切だと思うんですよ。Tシャツ一枚にしても、素材だったり生地の厚みだったりシルエットだったり、それがオリジナリティに繋がるのかなって。

10年後に久しぶりに引っ張り出してきて
また着てみようかなって思ってもらえるものを。

――15年続けてこられて、どういった方々に「muller」の服を着てほしいとかはありますか? 特に限定されてるわけではないと思いますが。

そうですね。“muller”って、スペインを構成する自治州のひとつのアラゴン州で、「女性」を意味する言葉なんですけど、現代の女性はファッションも価値観も、より多種多様になっていると感じています。私たちが高校生、大学生の頃は何かが流行るとみんなが必ず持っているみたいな感じでしたけど、今はそういう時代でもなく自由でいろんなスタイルが確立されていて、自分がどうありたいか、自分は何が好きでどう選ぶのかが大事な時代なのかなと。そういうことを考えているので、男性目線よりかは女性が見たかっこよさというか、同性から憧れられるような方々に着てもらえたらうれしいなって思います。女性は20代、30代、40代と体も状況も変化するなかで、たまにお客さんにも言われるんです、『子供いたらこんなドレス着れないよ』って。でも、この今の非日常のなかのちょっとした時に着てもらって、自分らしさを表現してほしいと思うんですよね。うちのスタッフにも言うんですけど、全身「muller」を着てもらいたいとは全く思っていなくて、それぞれのスタイルに取り入れてお客さんに提案してもらえたら、あ~、こんな感じで「muller」が見えてるんだなって私自身も楽しくなるんです。20代の方が着るのと40代の方が着るのとでは、同じドレスでも見え方が全く変わってくるし、そういう表現の仕方というか、多種多様な価値観がある時代だからこその面白さみたいなものを大事にしたいんですよね。

――特にカジュアルよりもドレスのほうが、着る人それぞれによって見え方が違ってきそうですね。つくり手である内田さんとしては、そこを感じられるのはとても興味深いことなんだろうなと思います。それでは、この先の展望を聞かせてください。

服づくりに関しては、これまでのスタンスを変えないで長く続けていければと思うんですけど、デジタルやニューノーマルといった今のこのご時世のなかで、どういうふうにファッションを伝えるのか、いかにして「muller」のフィルターを通しながら伝えていこうかと考えています。例えば、今皆さんが意識されているサステイナブルにしても、安価なものを3着持つんだとしたら、1着のいいものをより長く着るのも環境に配慮していることになるのかって。着ては処分してというサイクルをできるだけ減らして、ファッションの本質的なことを伝えていきながら、お客さんに10年後に久しぶりに引っ張り出してまた着てみようかなって思ってもらえるものを残したい。私自身も学生時代に頑張って買った服が10年、20年とクローゼットにいくつかあって。それが高いとか安いとかの話ではなく、そういういつまでも大切にされるような服を届けられたらなって思いますね。

――自分が気に入った服を大事に着続けることが一番のサステイナブルなのでは、という声もありますよね

そうですよね。あとはものを減らすだけでなく、いかに生まれ変わらせるかという部分も考えて、先日オリジナルのマスクをつくりました。先ほども言いましたが、生地がすごく好きで、この15年の間にお気に入りの生地をずっと残してきて、今回マスクという形で甦らせて。私たちは自粛できたとしても、店舗の方々が一生懸命動いてくださっていて私たちの服を販売してくれていることへの感謝の思いもあってつくりました。そういった過去のアーカイブが形を変えていくのも、サステイナブルに繋がるのかなって。私自身の生活も少しずつしかできていないけど、この新しい生活を始めるためのひとつのきっかけになったのかなと考えています。

Self Coordinate

“Less&More.”をテーマに、かつてのエレガントな装いに思いをはせながら、現代のエレガントとの違いをデザインに落とし込んだ今シーズン。それらのコレクションを軸に、内田さんがセルフコーディネートを提案してくれた。

Coordinate_1

ゆったりとしたサイズ感のアンサンブルニットは、サイドに施されたギボシがアクセントに。その隙間から覗くブラウスにはギャザーが入り、気分に合わせて表情を変えられる。
コネクトセーター¥49,500、ビアンカバルーンブラウス¥28,600

Coordinate_2

表面に花柄と孔雀、裏面にはドットがプリントされたオリジナルのシルク生地によるドレス。緩やかなマーメイドシルエットが、動くたびにエレガントな雰囲気を与える。
フィオレベルベットドレス¥132,000

Coordinate_3

繊細な刺繍による影や浮き出しによって、キルトのような立体感のある花柄をデザインしたジャケット。ブラウスやスカートもベージュで合わせた柔らかな1トーンスタイルが完成。
マテラッセジャケット¥86,900、レインジャージーブラウス¥36,300、グリッターマーメイドスカート¥36,300

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