My culture_ART
Sep 18, 2020 / CULTURE
手に取る人の五感を刺激する
革新的なブックデザイン
映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回はグラフィックデザイナーやフォトグラファー、アートディレクターなど、マルチに活躍する室塚円さんにオランダ出身の世界的ブックデザイナー、イルマ・ブームのアート作品を紹介してもらいました。
EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)
PROFILE
MADOKA MUROZUKA
海外留学を機にグラフィックデザインの道へ
アパレルブランドのプレス業務に従事した後、グラフィックデザインの道へ進んだ室塚円さん。ファッションが大好きだった彼女に“デザイン”という新しい境地を与えてくれたのは、ワーキングホリデーで訪れた海外での生活だったと話します。
「私はアパレル出身で、どちらかというとデザインを依頼する側だったんです。だけどワーホリで訪れたイギリスとデンマークで魅力的なアートにたくさん出合って、“表現する側”に興味が芽生えました。自分の夢を語るって何だかとても気恥ずかしいけれど、私が海外で出会った人は皆プラスのエネルギーに満ち溢れていて、何度も背中を押してもらいました。物事に対する価値観が本当におおらかなんです。周りからの言葉に私も挑戦する勇気がもらえたし、ヨーロッパでの生活を通して『もっと素直に、もっと自由に生きていいんだ』と視野が広がりました。まだまだ行ってみたい場所が国内、海外問わず本当にたくさんあって、一ヶ所になかなか留まれなくなりそうです(笑)。ワーホリを終えてからは仕事をしつつ学校に通い、本格的にグラフィックデザインを学びました。今は写真を撮っていた経験も生かしつつ、フリーのグラフィックデザイナーとして活動しています」
ユニークな発想で人々を魅了するブックデザイナー
今回、室塚さんが紹介してくれたのは、アムステルダムを拠点としたグラフィックデザイナー、イルマ・ブームによる作品たち。主にブックデザインを手がける彼女の斬新なアイデアに魅了されたという。
「デザインの学校に通っていた時、先生におすすめされてブームを知りました。彼女の本をひと目見た瞬間、『今までどうしてこの人のことを知らなかったんだろう!』と衝撃を受けたんです」
「例えば、オランダの国民的キャラクターとしておなじみのミッフィーのイラストの見開きに、同じオランダの巨匠と呼ばれるレンブラント・ファン・レインの作品を配置した一冊。大勢のミッフィーの隣には彼の代表作『夜警』を、おしゃれをしたミッフィーの対向のページには着飾った貴婦人をレイアウトしていて。よく見るとそれぞれの絵が少しずつリンクしているんです。とっても斬新なアイデアだし、児童書という位置付けも素敵ですよね」
「ブームのデザインはただ“良い”だけじゃなく、五感で楽しめるのも魅力。これはデンマーク生まれのアーティスト、オラファー・エリアソンが個展の際にブームと一緒に作った作品集です。デンマークに留学していた頃から彼のファンなのですが、2人がコラボしていることを知って大興奮! この本はページの随所に透明度の高いフィルム紙を使用していて、印刷物でありながら展覧会を疑似体験しているような感覚が味わえるんです。あと『シャネル』から依頼を受けてデザインしたという『シャネル』の代表的な香水“N°5”のアートブック『N°5 Culture Chanel』も気になっています。インクを一切使わず、エンボス加工という技法で文字を浮き出した真っ白なブックは、ブームが実際に感じた目には見えない“香り”が表現されています。いつか手に取ってみたい一冊ですね」
「最後はアムステルダム国立美術館の収蔵作品から、オランダの典型的な食材を抜粋したクックブック。AからZまでアルファベット順に並んでいて、各食材を用いたレシピと美術作品が掲載されているのも面白くて。例えばAの“APPLE”だと、アップルパイのレシピが載っています。しかも、あえて裏の字が裏写りしてしまうほど薄い紙を使っていて、見て、触って楽しめる作品だと思います」
人の心に残るような作品を生み出したい
「今はデジタル化が進んでいて、雑誌や小説もどんどん電子書籍に切り替わっていますよね。そういう流れは自然だし便利だとも思うけど、私はやっぱりアナログへの愛着があります。紙に触れた時の質感や開いた時の香り、古びていく姿、そういう温度を感じたいんです。今回紹介したブームも、一冊のなかでいろんなアイデアを駆使して五感に働きかけるデザインを生み出している。本や紙の可能性を追求し続けている姿勢がすごく素敵だと思います。私自身もエディトリアルデザインに興味があるので、いつかアートブックを手がけるのがひとつの夢です。そして、歳を重ねても自分の気持ちに正直に、日々挑戦し、私も見た人の心に残る作品を生み出したいです」
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