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May 15, 2020 / CULTURE
ユニークでシャープな風刺に溢れた
予測不能のショートショート
映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。第3回は、渋谷を拠点に展開するセレクトブックストア[SPBS]で店舗マネジメントや新規事業を手がける鈴木美波さんに、おすすめの本を紹介してもらいました。
EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)
常に新しい本屋像を追求し続ける[SHIBUYA PUBLISHING &BOOKSELLERS]。こちらの看板社員として多方面で活躍する鈴木美波さんは、新店舗の開発をメインにイベントの企画なども行う腕利きマネージャー。そんな彼女、幼い頃から本の虫だったかと思いきや、読書を始めたのは意外にも大学時代だったと言う。
「実は私、大学生になるまでほとんど読書をしてこなかったんです。だけど大学の図書館がすごく充実していて、そこから本格的に本を読むようになりました。この業界には昔から本が好きで仕方がなかったという人が多いので、私みたいなタイプは少し珍しいかもしれません(笑)。だからこそ、自分ならではの本の薦め方を模索しながら仕事を続けてきました」
今回挙げてくれたSF作家・星新一の『ボッコちゃん』と出合ったのは、読書の面白さに目覚め、さまざまな作品に触れ始めた二十歳の頃。短い物語に詰め込まれたスマートなユーモアとシャープな風刺、展開の読めないストーリーに夢中になったそう。
「私が初めて読んだ星新一の作品が、この短編集でした。イラストレーターの真鍋博氏が描いた、不思議ワールド全開の表紙に惹かれてジャケ買いしたんです。それ以来、独特の世界観にどっぷりハマってしまい……。最初に読んだ時は、藤子不二雄Ⓐの『笑ゥせぇるすまん』のブラックユーモアと通じる部分があると感じたんです。ラストがどうなるのかギリギリまでわからなくて、最後の2行くらいで着眼点が変わって一気にクライマックス。読後にハッと気付かされる、その爽快感がヤミツキになりました。今でも古本屋さんで彼の作品を見つけるたび、自分のコレクションに加えています」
星新一の代表作としても知られるこちら。収録された全50篇のなかでも、特に印象に残っている作品を教えてもらった。
「地球に謎の宇宙人がやって来る『来訪者』です。着眼点の移り変わりが巧みに描かれていて、まるで映画のカメラワークを眺めているような気持ちになりました。地球人の心理描写もユーモアたっぷりで、短いけれどすごく考えさせられます。表題作の『ボッコちゃん』もそうですが、星新一の作品はどんな結末になったか、あまり直接的な表現をしないのが特徴で。人々の様子やその場の雰囲気だけをあくまでさらっと描き、読み手に投げかける。面白かったという無邪気な感想だけでは終わらないところが魅力です。彼はもともと理系の人間で、製薬会社の社長をしていた経歴があるほど頭の切れる人なんですよ。それもあってか、彼の社会風刺はどこかロジカルな部分を備えていて。作品内にも博士やロボット、宇宙といったワードがたくさん出てきます。私も高校までは理系科目を専攻していて、同じ理系だった身としては、さり気ない描写やワードに掻き立てられるものがありますね」
本と同じくファッションも大好きという彼女。一見かけ離れたように見える2つには、どこか共通している部分があると話す。
「学生時代は『コム デ ギャルソン』や『メゾン マルジェラ』が好きでした。どちらの服も予想外の部分に穴が空いていたり、不思議な質感の生地を使っていたり……。ひとクセあるブランドですが、一着一着に込められた意図を解釈するのが楽しくて。自分にはなかった新しい視点を与えてくれる、本もファッションもそういうところが似ていると感じます。読み終えた後、自分の中にふと何かを残してくれる本。そういう本にこれからも出合いたいですし、お客様におすすめしていきたいですね」
そのほか、ポール・オースター著『ガラスの街』、『鍵のかかった部屋』に並ぶニューヨーク三部作の一つ「『幽霊たち』も面白いですよ」と教えてくれた鈴木さん。星新一の作品と同じく、最後の最後まで予想できないストーリーや着眼点の切り替わりがたまらなく魅力的だそう。おうち時間のお供にぜひ!
PROFILE
MINAMI SUZUKI
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