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Aug 31, 2020 / CULTURE

アイデアを大胆に詰め込んだ
ブラックユーモア溢れる短編集

『嵐のピクニック』本谷有希子(講談社文庫)
優しいピアノ講師による一瞬の狂気の姿が綴られた「アウトサイド」、ボディビルにのめり込む主婦の想いを描いた「哀しみのウェイトトレーニング」など、計13作品を収録したオムニバス。

映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回は「kotohayokozawa」のデザイナー・横澤琴葉さんに、奇想天外な発想で読む人を虜にする本谷有希子さんの作品を紹介してもらいました。

EDIT_Yuka Muguruma(PERK)

PROFILE

KOTOHA YOKOZAWA

横澤琴葉
1991年、愛知県生まれ。2015年に自身がデザイナーを務めるファッションレーベル「kotohayokozawa」をスタート。趣味はリサイクルショップを巡ってチープな掘り出しものを探すことで、最近はインテリアにもハマっている。
Instagram_@kotohayokozawa

本谷有希子の作品との出合い

 今回協力してくれたのは、即興性を重視した一点モノが揃うレディースブランド「kotohayokozawa」のデザイナー・横澤琴葉さん。小説家のほか、劇作家や演出家、女優としても活動する本谷有希子さんの短編集を選んでくれた。
「初めて本谷さんのことを知ったのは高校生の頃。彼女が原作を手がける映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を観たのをきっかけに、ほかの作品にも興味を持つようになりました。フジテレビの人気番組『セブンルール』にも出演されていますが、ひとクセありそうなお人柄や独特の雰囲気にも惹かれます」

特に印象的な作品とその魅力

横澤さんが挙げてくれたのは、13の短編を収録した『嵐のピクニック』。数あるなかでも、特に印象に残っている作品を教えてもらった。
「本谷さんの作品の特徴は、自由な発想から生まれる奇抜なストーリー。私の一番のお気に入りは、テレビでボクシングの試合を観たことを機に、平凡なパート主婦がボディビルダーを目指す『哀しみのウェイトトレーニー』です。ストーリーだけでも十分に滑稽だけど、その女性の目の前で凶暴な犬が小型犬を噛み殺してしまうシーンが印象的でした。痛ましい事件ではあるけれど、それを筋肉隆々の主人公が呆然と眺めているところを想像するとめちゃくちゃシュールで。悲しい場面なだけに滑稽さが引き立つというか、コントラストがすごく面白くて。あとは試着室を舞台に物語が繰り広げられる、ちょっぴりファンタジックな『いかにして私がピクニックシートを見るたび、くすりとしてしまうようになったか』も好きですね。私はやっぱりファッションが好きだから、試着室という日常と隣り合わせの空間で起こる予測不能な展開にワクワクしました」
 高校生の時にハマって以来、本谷有希子の小説を何冊も読んだという横澤さん。多くの作品に共通する魅力とは?
「彼女の作品に登場する女性って、普通に考えると『え、この人大丈夫?』ってなっちゃう狂気じみたキャラクターが多いんです。だけど男性作家には絶対に描けない、女性ならではの細かい心理描写がとにかく秀逸で、ほんとイカれてるなと思いつつもどこか共感してしまう。例えば、この本に収録されている『アウトサイド』という作品。これは9年間ピアノを習っているけど、やる気がなくてちっとも上達しない女の子のお話で。ピアノの先生の戸惑いやイライラに気付きながらも、つい反抗的な態度を取ってしまう若さとか、私も嫌々ピアノを習っていたからわかるんです(笑)。本谷さんはひと筋縄ではいかないような感情を描くのがとっても上手で、常に想像を超えた最悪の事態の斜め上をいくというか。その描写によって、登場人物の人柄がよりリアルに浮かび上がってくる。ストーリーはもちろん、微妙な心の動きを文章でしっかり表現しているところも魅力だと思います」

本谷作品とファッションとの共通性

 また、本谷作品にはファッションと共通する部分があると横澤さんは話す。
「いろんな服をレイヤードしたり、新鮮な組み合わせを楽しんだりするのがファッションの醍醐味。私は奇想天外な展開と複雑な感情が交錯する本谷さんの小説を読むと、まるで服をレイヤードしているような感覚に陥るんです。それってどこか服をつくる感覚に似ていて。私もただ『可愛いね』、『面白いね』と言われるような服をつくりたいわけじゃないから、『それ何なの!?』と周りに突っ込まれるようなデザインや、時には人を不安にさせたりちょっぴりユーモアがあったりするものが好きなんです。ファッションとフィクションの物語、ジャンルは違うけど私が表現したいことに近いのかも。服のデザインも人の感情も、そんなに簡単であってたまるかっていう(笑)。自分のモノづくりの感覚と似ている部分があるだろうからこそ、私は本谷さんの作品に惹かれるのだと思います」

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