To a Sustainable Future

conversation part.2

Jun 28, 2021 / FASHION

“循環”する社会を目指す
彼女たちのサスティナビリティ

それぞれが考えるサスティナブルな行動

NOMA 私は3つのことを軸に行動していて。ひとつ目は、生活の中でいかに“循環”を意識するか。地球上のものは多彩なネットワークを介して繋がっているから、それが上手に巡る環境を整えることが大切だと思う。色が薄くなった服は草木染めやタイダイ染めをしたり、調理で出た廃棄をコンポストにして野菜を育てる肥料にしたり。まずは自分が気軽に取り組める“循環”を実践することが、無駄を生まない社会を築く第一歩だと考えています。2つ目は、豊かな自然の残る場所を実際に訪れて、さまざまなことを感じ、知るということ。自分たちの生きている惑星の歴史を知ることは、自ずと私たちが豊かな未来を選択することに繋がると思うんです。だからこそ知ることが大事だし、私自身まだまだいろんなことが知りたい。書物を読んだりドキュメンタリーを観たりして知識を得るのもいいけど、やっぱり身体で体感して吸収するってすごく大事なことだと思うんです。3つ目は、日本人としての歴史や自然観を紐解くことで、豊かな自然環境の一部として生きていくためのヒントを得ること。日本人が元来持つ自然への畏敬の念やその距離感は、サスティナブルな生活を送るためにも再認識したい感覚じゃないかなと思っていて。これまで自然と共生してきた歴史があるからこそ、生まれたものだと感じています。少し前に、和歌山県・那智の大滝という土地を訪れたんです。大滝には原始林と呼ばれる手つかずの森があって、しかもハンナが研究している粘菌が出てくるエリアがあるの。

ハンナ それめっちゃ気になる!

NOMA そう、いつか一緒に行ってみたいね。“森の国”と称される日本でも、原始林は全体の5%前後しか残っていないみたいで。日本の原始林に入ったのはこれが初めてだったけど、世界遺産にも登録されているとあって本当に美しかった。ハンナは知っていると思うけど、私が訪れた那智の原始林を拠点に研究をしていたのが、日本初のエコロジストと名高い南方熊楠なんです。

ハンナ 私も今日、熊楠に関する本を持ってきた! 粘菌の研究では第一人者と呼ばれていて、自然や生物同士の生態系を人間との関係性も含めて考えていた人だよね。神社と森は古来から切っても切り離せない仲だとされていて、その地域の神社を文化として保存しつつ、森を守りたいという思いで活動を続けていたエコロジー運動家。

NOMA 民俗学者の柳田國男とも親交があって、手を取り合って那智の原始林を含め一部の鎮守の森や御神木を守ったんだよね。そんな努力や保護活動があったから原始林を眺められるんだと思うと、なんだか感慨深かったな。ハンナは普段気を付けてることはあるの?

ハンナ あまり無理をしないことかな。私はモノを捨てられないのが自分の欠点だと思ってきたけど、それをポジティブに捉えるようにしていて。最近、衣類に空いた穴をあえてカラフルな糸でかがる“ダーニング”という方法を知って、長く履いている靴下はこれで修繕しています。

NOMA すごく器用! こうやってお直しすると長く履けるね。

ハンナ モノにすごく愛着が沸くから捨てられなくて、1時間かけてそれを修繕することもあるんです。モノを捨てられない人間ってネガティブな印象があるかもだけど、ダーニングのように素敵な修繕方法を知ることで、自分の欠点をポジティブに捉えることができるようになりました。そのプロダクトを大切に長く使っていくなら、頑張って捨てようとしなくていいと思うんです。それも無理をしないことのひとつかな。逆に、昔は壊れたものを再利用して共同体に役立てること、少ない生産物を循環させることがスタンダードで。苦手な人はもちろんやる必要はないけど、私のようにモノを捨てずに修理を繰り返して、長く使い続ける人間がいてもいいと思うんです。あとは、表面的にはなかなか得られない物事の背景に目を向けるのも大事だと思う。この間、『ファションプレス』にジビエの革で服を作っている「セヴシグ」という日本のブランドが紹介されていたんです。動物を使わずに生産された合成皮革がエコレザーとして謳われる時代に、シカやクマなど害獣として狩られる野生の動物の革を使うことで、環境に配慮したリアルレザーなんだよね。果たして、どちらを作るのに余分なエネルギーがかかっているのかなと考えさせられました。リーズナブルなリアルレザー製品には、動物虐待という背景があるかもしれないけれど、さらにその裏側には、先進国が発展途上国の労働者を安く使っているという現実がある。動物に配慮する前に、人間に配慮した労働環境が整備されているのか。あくまで一例だけど、そういう点にまで目を向けるべきだと思うし、世間でもてはやされているものの背景に何があるかは、自分で情報収集して選んでいく必要があると思います。

NOMA 確かに、食肉用の動物に関しては厳しいメッセージもたくさんあるけど、もし動物を処分してしまったのであれば、それを何かに還元した方がサスティナブルだと感じる。だって自然の摂理自体がそうだもんね。循環と共生と分解、全く無駄がないから本当にすごいと思う。

ハンナ やっぱり生物が地球で生きる以上は、何らかの資源と動物、植物など、誰かの生を奪って生きていかないといけなくて。だけど人間があまりに力を持ちすぎてしまったから、どうやったら一緒に生きていけるのかを考えていきたいな。

NOMA 人間の社会全体が自然界にもっと調和するために、購入するものの背景を見極めることはすごく大切だと思う。食物の場合は、どういった農法で栽培しているファームなのか、環境問題に対してどんな取り組みをしているのか調べたり。ファッションだと、どんなエネルギーや生地を使って製造しているのか、そのプロセスを学んだり。プロダクトの背景を理解することは誰でもできるし、その一つひとつの選択が未来に繋がっていると思います。気軽にできるからこそ、大事なことなんじゃないかな。

— NOMA’S PICK UP PRODUCTS! —

「ヒツテリックグラマー」のデニムパンツ
「好きなモノを購入すると、より愛着を持って大事にしようと思えますよね。こちらは中学2年生の頃からずっと穿き続けているヒッピーなデザインのデニム。自分の感性を大切にしながらモノを選んで、それを長く使い続けることってすごくサスティナブルだと思うんです。こういう買い物の方法もシェアしていきたいな」
「イコーランド トラスト アンド インティメント」のTシャツ
「地球、社会、作り手から買い手まで、すべてから信用されるファッションを目指す『イコーランド トラスト アンド インティメント』によるオーガニックコットン製のTシャツ。首元のタグは“信用タグ”と呼ばれていて、生産者一人ひとりの名前が刻まれているんです。しかも独自のドネーションプログラム“Water is to Us”を通して、環境保護団体への寄付を行っているそう。Tシャツの袖口には、そのロゴが施されています」
左 / グッピーフレンド・ウォッシング・バッグ
右 / 「o0u」のウォッシングバッグ

「水は“地球を循環する旅人”と言われるくらい重要な存在。私もなるべくベストな状態をキープするお手伝いができたらと、洗濯の際このウォッシングバッグを使っています。合成繊維や再生ポリ素材の衣服を入れて洗うと、汚水の排出を軽減してくれる。左のほうは『パタゴニア』元日本支社長の辻井隆行さんに教えてもらいました」
「スウィル」のタンブラー
「これはカラフルなマーブル柄が気に入っていて。単純に環境に優しいプロダクトを使うだけではなく、ワクワクするようなデザインを選ぶことが、エシカルなライフスタイルを持続するうえで大切だと思うんです。私はフィトセラピーの勉強をしているので、その日の体調に合わせて植物のエッセンスとお湯をブレンドしたオリジナルドリンクを持ち歩くことが多いですね」
『猫楠 南方熊楠の生涯』水木しげる
「粘菌の研究に造詣の深い南方熊楠氏について描かれた、水木しげるによる漫画です。ハンナのバイオアートにも通ずる部分があると思うけど、私もエコロジーに対する彼の考え方がすごく好きで。普段は割りとガチガチの本を読むことが多いだけに、これは頭をほぐして息抜きしたい時に読んでいます」