The roots of abstraction
Oct 14, 2022 / CULTURE
アーティスト山瀬まゆみが語る
抽象的な作品の根源にあるもの
内側に存在する“プリミティブな生”を表現した抽象的なペインティングやソフトスカルプチャーといった作品を発表するほか、ライターや編集者としてジャンルを超えて活動するアーティスト、山瀬まゆみさん。クリエイティブに対して自由な発想で向き合う彼女の頭の中が気になって、個展会場に足を運び作品のことや自身のことなどを伺った。
PHOTO_Yoko Tagawa
EDIT&TEXT_Fuka Yoshizawa(PERK)
エキシビションについて
—— 9月中旬から開催されている、山瀬さんにとって一つの節目となるような今回の個展ですが、『The elephant in the room』というタイトルにはどういったメッセージが込められているのでしょうか?
「今回個展のお話をいただいた時、最初にこのスペースを見てそこからどういう展示にするか決めていったんです。ここまでの広さは初めてだったので、私の描いた絵と“目には見えないけどそこに存在するもの”という私の制作のテーマが、この会場で表せるようなタイトルにしたくて。誰が見てもわかるようなものを探していて、英語でこの言い回しを思いついた時すごくいいなと思ってこれに決めました」
—— この言葉、初めて聞きました。ことわざのような感じですか?
「“The elephant in the room”って英語だと『あ、ちょっと触れちゃいけないような話かな』みたいなニュアンスがあって。同じ空気を共有するという意味で言うと、日本語の“阿吽の呼吸”や“空気を読む”という表現に近いかなと。大きい部屋に“elephant”がいて、みんな気付いているのにあえて触れない。少しだけ悪い意味もあるんですけど、そこは重視せずにポップな意味合いで、ただこの会場にどデカい“elephant”がいたら面白いなと思って(笑)」
—— “目に見えないけどそこに確かに存在する”というのは、山瀬さんの制作のコンセプトでもありますが、この言葉に行き着いた経験はありますか?
「これは絵を描き始めたきっかけにもなるんですが、高校の時に絵画の授業でキャンバスを配られて『好きなものを描いていいよ』と言われた時、思春期の自分のモヤモヤとか、なかなか人にさらけ出せない感情のようなものを絵で表現していたんですよね。それがなんとなく抽象的なものになっていて、それを今まで続けてきた感じです。だんだんと言葉でも言えるようになっていって、当時描いていたものはこういうことだったのかなと自分でも理解して考えていくようになって、それを言語化したのがこのテーマ。だから“内臓”とか“体内の臓器”とか、それは人に伝えるために使っているだけであって、作品がそれらを表しているわけではなく、自分で探り探りなんとなく見つけていった表現なんです」
—— ずっと続けてきたものが、ようやく言葉として表せるようになった感じですかね。
「そうですね、徐々に。ペインティングやソフトスカルプチャーだけでなく、今までいろいろな表現を試してきたので。それをどう説明すればいいのかと思考錯誤しながらここまで来たという感じです(笑)」
—— そんな今回の個展、山瀬さん自ら注目ポイントについてお話いただけたらと思います。
「やっぱり空間ですかね。ロンドンから帰ってきて初めてこんなに大きな立体作品を展示しているというのもありますし、全体の構成を見ていただけたら嬉しいです。今回インストールにたくさんの方が関わってくれていて、ほかの方の意見を聞きながら進める感じもすごく楽しかったです。例えば、作品を並べる順番とか、小さい作品は一列よりバラバラに並べた方が立体作品と連動するんじゃないかとか。広い空間なので全体で眺めるのはもちろん、歩きながら眺めた時に場所ごとで見えるものが違ってくるような世界になるように考えました」
—— 個展が始まって3週間ほど経ちますが、始まる前と今とでは気持ちの変化はありますか?
「安心しています。やっぱりできるまでが一番不安なので。作品が飾られる寸前までその不安があって、空間ができて飾られた絵を観た時にやっと、うわぁ……終わったかも、となりました。個展が始まってたくさんの方が来てくれて、今はまだその余韻に浸っています」