My culture_BOOK

Dec 25, 2020 / CULTURE

多角的な表現とリズミカルな文体が
イマジネーションを刺激する一冊

『水瓶』川上未映子(青土社)
表題作「水瓶」をはじめ「戦争花嫁」、「バナナフィッシュにうってつけだった日」、「わたしの赤ちゃん」など、全9編が収録された詩集。

映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回はニットウエアをメインとしたブランド「マラミュート」のデザイナー・小髙真理さんに、女性をテーマにした作品を数多く執筆する川上未映子の『水瓶』を紹介してもらった。

EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)

PROFILE

MARI ODAKA

小髙真理
埼玉県出身、文化ファッション大学院大学を卒業。2014年よりニットウエアをメインとしたブランド「マラミュート」をスタートし、日本の職人による伝統的な技法を落とし込んだユニークなコレクションを展開する。
Instagram_@mariodaka
      _@malamute_iii_knit

彼女の読書観と『水瓶』の楽しみ方

 “強さと柔らかさを併せ持つ女性像”をコンセプトにした「マラミュート」のデザイナー、小髙真理さん。幼い頃から近所の本屋さんに足繁く通っていたという読書好きの彼女に、特におすすめの一冊を尋ねた。
「私は言葉そのものが好きなので、本はジャンルを問わずなんでも読みます。どうしても惹かれるのは、プロダクトの質感や物語の情景が目に浮かぶように伝わるテキストや音楽性を感じるリズミカルな文章。川上未映子さんの作品には、そういった秀逸な表現がたくさん綴られているんです」
 今回選んでくれた『水瓶』は、全9編からなる詩集。彼女はこの作品のどういった点に魅力を感じたのか。
「私が川上さんの作品を知ったのは、とある劇団に『川上さんの作品をオマージュした衣装をデザインしてほしい』とお願いされたことがきっかけ。初めて読んだ時は、なんて美しくて音楽的な表現をする作家なのだろうと感じ、徐々にその魅力にハマっていきました。なかでもこの『水瓶』はストーリーを楽しむだけではなく、少女ならではの不安定な心情や文章のリズムを味わいながら読むのがベターだと思います」

特にお気に入りの作品とその魅力

 『水瓶』に収録されたもののうち、小髙さんが気に入っている作品について訊いた。
「特に印象的なのは、17:09、17:17、17:19……と時間の経過をデジタル時計の表示のように明記しながら、黄昏時から夜を迎えるまでの風景と感情の流れを綴った『冬の扉』という詩です。時間を細かく刻みつつ、夕暮れの速度に抗うかのように言葉を紡ぐことで、刹那的な冬の情景がより鮮明に浮かび上がってくる。色や音、匂いのことをさまざまな角度から言い表しているから、直接的な表現がなくてもその様子が伝わるんです。人によって捉え方は異なると思うけど、読み手に想像の余地を与えてくれる素敵な文章だと思います。あと、『治療、家の名はコスモス』という作品も好き。こちらは、窓や扉をきっちり閉めた空間じゃないと落ち着かないという少し変わった少女についての物語。その設定だけでも面白いけど、この作品には川上さんのブラックユーモアが凝縮されているんです。この子は想像だけで身震いしてしまうほどハトが嫌いで。それを知っているセミ嫌いの親友と口喧嘩をする場面があるのですが、相手に『鳩をにぎって、いわゆる鳩胸のあのおおきく膨らんだところであんたの顔をぽんぽんする』と言われて、少女もその応酬に『蝉のかすかすになった抜け殻を拾ってあつめてきて、でもちょっとの汁くらいはついているのをあつめて、お腹のとこのしわもちゃんといかしたままカットしてシート状にして、あんたの顔をみっちりパックする』と言い返すんです。彼女たちもよくこんなことを考えつくなと思いますし、その様子を想像するだけでなんだか笑えてきます。『ジャムの壜を閉めては安堵! 食器棚の戸を閉めては安堵! 歯磨き粉の錠剤みたいなキャップを閉めては頭の中で安堵!』と少女がモノを密閉しては安心している様子を表した文章も、そのリズムがなんともいえず心地よくて。ユーモアと音楽性、ふたつの緩急を使い分けた表現がとても魅力的です」

全体の感想とまとめ

「『水瓶』という詩集には、全編を通して人間の言葉にできないような不安が詰め込まれていると感じていて。その憂いのほとんどはただの考えすぎで、結局は登場人物の過度な想像力が原因。だけど、頭の中から溢れてくるとりとめのない感情を表した言葉を読むと、まるでラップを聞いているような感覚になります。私も考えすぎてしまうところがあるから、想像が飛躍しちゃう人たちの気持ちが少しわかるんですよね(笑)。私がデザインするニットは、独特の表情が生み出すテクスチャーを重視したデザインが特徴で。そういった繊細なディティールを日々大切にしたいと考えているからこそ、モノの質感が美しく表現された文章やリズムが言語化されたようなテキストを読むと、気持ちが高まるのかもしれません。『水瓶』はまさに、私のイマジネーションをかき立ててくれる作品。そんな一冊を、これからも大切に読んでいきたいと思います」

“High&Low” by MARI ODAKA

— High —

「エルメス」の85ルージュH

「大切なお出かけの時は、艶やかで上品な口元に仕上げてくれる『エルメス』のルージュを。最近はマスク生活が定番化してきちんと化粧をする機会も減りましたが、お気に入りのリップをつけると背筋が伸びるような気持ちになって気分も高まります」

— Low —

「ザ パブリック オーガニック」のカラーリップ

「リラックスして過ごす日は、『ザ パブリック オーガニック』のカラーリップをつけています。1,000円以下で気軽に買えるアイテムですが、ナチュラルな発色が普段使いにちょうど良くて。保湿力も備えているので、リップケアにも使えるスグレモノです」

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