My culture_ART
Jun 22, 2020 / CULTURE
亡き妻への愛を詰め込んだ
あの巨匠による私写真集
“アラーキー”の愛称で知られる写真家で現代美術家の荒木経惟が、1971年に出版した妻の死の軌跡を辿る私家版の写真集。
映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回はモデルや女優として活躍する傍ら、詩の創作も行う弓ライカさんに、日本を代表する写真家・荒木経惟の作品集について伺いました。
EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)
16歳の時に「ミスiD」に選出され、モデルに女優、作家と活躍の幅を広げてきた弓ライカさん。そんな彼女に、毛先の跳ねたヘア、丸いサングラス、ちょびヒゲといったインパクトのある見た目でも有名な荒木経惟氏の写真集、『センチメンタルな旅・冬の旅』の魅力を聞いた。
「『今のあなたにはこれが必要だと思う』と、17歳の時に親しい友人からこの写真集をもらいました。幼い頃から写真を漠然と眺めるのが好きで、もともと荒木さんのことは存じ上げていましたが、これをきっかけにより興味を持つようになったんです」
この作品は妻・陽子さんとの新婚旅行からスタートし、彼女の最後の誕生日から闘病生活、死を迎えた日、そして葬儀後までの写真が日付入りで紹介されている。
「私はこの写真集を、いわば夫婦生活の集大成のようなものだと捉えています。あくまでナチュラルな2人の関係性は写真にも表れていて。前半の新婚旅行の写真を見ても、陽子さんはほとんど笑ってないんですよね。互いに理解し合えるパートナーだからこそ、無理に笑ったり自分を飾ったりすることもない。きっと素敵なご夫婦だったんだろうと思います。特に印象的なのは、2人が自宅のソファで愛猫のチロと寛いでいる一枚。可愛がっている猫がいて、その傍らには当たり前のように陽子さんがいる。荒木さんの愛情と温かな眼差しを、ひしひしと感じました」
何気ない日常を綴る一方で、日を追うごとに深まっていく荒木さんの孤独感に、ライカさんは自身の心情を重ねたという。
「例えば、陽子さんの生前と没後を比較したバルコニーの写真。整然としていたバルコニーがある日を境に荒廃していく様子から、陽子さんを亡くして独りぼっちになっていく荒木さんの悲しみや寂しさが伝わってきて……。当時の自分の状況とも重なり、思わず感情移入してしまいました。本を読んで泣いたことは何度もありますが、写真を見て泣いたのはこの時が初めてです。なかには棺桶に横たわる陽子さんの写真もあって。亡くなった人の表情って、見るのが少し怖いというか憚られるものだと思うんです。だけど荒木さんは、最後の最後まで彼女を撮影し続けている。その深い愛情と写真への執着心に、衝撃を受けたことを覚えています」
またラストを飾る一枚には、猫のチロが雪の降るなかで飛び跳ねている写真が掲載されている。彼女はここに、陽子さんを亡くした荒木さんの未来が表現されているのでは? と推測する。
「夫婦にとってチロは子供のような存在だったからこそ、この写真を選んだのではないかと思います。チロは陽子さんの代わりには決してなれないだろうけど、かけがえのない家族であるわけで。チロとともに生きていく荒木さんのこれからを想像することができました。愛を語るのって何だか恥ずかしいし、21歳の今もまだまだ掴み切れないけれど、初めて愛について考えさせられた作品です。それぞれに愛の形があるなかで、荒木さんは大好きな陽子さんとの愛の形を残したかったんだと思います。私はすごくネガティブだから、そこをしっかり受け止めてくれる人が理想かな。好きなものが同じ人より、嫌いなものが同じ人のほうが素直になれる気がします。この先、互いを一番理解し合えるようなパートナーに出会えたらいいですね」
最後に、いつか荒木さんに写真を撮ってもらいたいかと尋ねると、「すごく贅沢ですが、喫茶店でお茶をしている自然な姿を撮ってほしい。普段の私は、彼の目にどう映るのかが知りたいですね」とライカさん。彼女が言うように愛について語るのは恥ずかしく、時に難しいものだけど、たまにはその在り方について考えてみるのも大切なこと。夫婦の愛の形に触れながら、ゆっくりと想いを巡らせてみたい。
PROFILE
RAIKA YUMI
Related Contents