cinecaのおいしい映画
Jun 29, 2022 / CULTURE
“クリーム・イン・ザ・ソーダ ”
映画を題材にお菓子を制作する〈cineca〉の土谷未央による連載。 あなたはこのお菓子を見て、何の映画かわかる? 自分が知っていたはずの映画も、視点や考え方を少し変えるだけで全く違う楽しみ方ができる。それは、とてもアーティスティックで素敵な感性。
Photo_Haruka Shinzawa
Re-Edit / PERK 2018 July Issue No.26
低気圧に翻弄される季節。人生においての思春期とは、暦でいう6月の梅雨を感じさせるような時期なのかもしれない。恋人に、母親に、父親に、周りにいる人に、これでもかと翻弄される。
映画『サブマリン』は、主人公オリバー(クレイグ・ロバーツ)の視点から、プライベートかつ主観的独断で進んでいく奔走劇がおもしろい。その観察眼や見解は、皮肉めいているが、常に不安を伴い外からの攻撃には敏感だ。まるで潜水艦のように静かに海の中で機を待ち、今か今かと魚雷を打つときを楽しみにしているようにも見える。
思春期の頃を思い返せば、なんとなく地平線よりも低いところに自分がある錯覚がつきまとっていた。いつもぼんやりと何かに取り憑かれ、大人でも子供でもない不安定なポジションに浮かれ、周りに流されたり少し背伸びをしたり、視界といえばガラスを1枚挟んだような感覚とともにあった。浮上すれば攻撃されてしまうかもしれないし、潜ったままだと目の前は不明瞭のまま、ただそこから動く術はなし。手足が不自由な自分に苛立ちを覚え、自暴自棄になることも。
人間は、水に浮くようになっているのだから、きっといつかは浮上する。 そして、知らぬうちに食い物にされるリスクと戦いながら生きていく。時が経ち歳を重ね、沈んでいた自分のことなど遠い過去。けれども“潜水艦”の経験がある人なら、簡単に社会へ溶け出さない強い心を育てたことに成功しているかもしれない。
神経質なほどに、閉塞感によって自分が傷つくことを恐れてみたものの、冷静に振り返ると、そこは間違いなく温かく守られた場所だった。自分=潜水艦の思い込みから心の浮上に取り憑かれていたけれど、その思い込みこそが、必要のないダメージから自分を守る一番の術だったはずなのだ。
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