Inner Thoughts #03
岡ゆみか
Mar 11, 2024 / FASHION
「着ることを好きになってほしい」
“余白”がもたらすファッションの醍醐味
――いつもどういったことを思い描きながら、服作りに向き合われているのですか? 今お聞きしたヴィンテージウェアやそこから派生するカルチャーから影響を受けられているとは思いますが、今のムードを加えるために意識されていることを教えてください。
「シーズンが終わった後にはやっぱり古着屋さんとか、あとは本屋さんに行ってインプットをするとかですかね。海外の写真集が好きで、どうやら風景とかよりも人の顔の写真が好きみたいで。人間が好きなのかな。人のヌードっぽい写真も好きですし」
――人の顔の写真から具体的にインスピレーションを得られているわけではなく、感覚的にインプットされているということですかね。
「そうですね。なんとなくこういう感じが気になるみたいな。あと、普段は自宅で仕事しているんですけど、打ち合わせなどで青山の方に来る時は人のことをガン見してしまいますね(笑)。その方が着ている細かい服ではなく、今はこういうムードなんだなと全体感を見ている気がします。特におじいちゃん、おばあちゃんの着こなし、あのバランス感が好き」
――すごくわかります(笑)。
「その人たちの感性なんかが、スタイルとして表れるじゃないですか。人は見た目じゃないとは言うけど、やっぱりそれまで見てきたものが素直に出てくるというか。この人はこういうのが好きなのか、みたいな。勝手に想像しながら楽しんでいます(笑)」
――デリバリーが始まっている春夏のお話も聞かせてください。毎シーズン、テーマ名のようなものは設けていないと思いますが、今季はスポーツものが多いそうですね。
「そうですね。いつものベースとしてあるトラッドに、今回は“ユニフォーム”をキーワードにスポーツの要素を多めに取り入れました。自宅の近くに中学校や高校があって、ジャージの上にスカートをはいた女子をよく見かけているんですね。私が中高生だった頃と変わらないんだと思って、そこからアイデアを得たアイテムも作りました」
――先ほどの人間観察の話がここにつながるんですね(笑)。
「あ~、今も続いているなんだと思って。プリーツの合わせをイレギュラーにできて、ダブルベルトにして巻きスカートのようになるアイテムがあるんですけど、ウエストの重ね具合をずらしてもいいし、折り込んでもいいし、なんならベルトを強めに締めて腰回りをぐしゃぐしゃにしたっていい。これも余白なのかな。こうはかないといけないっていうふうにはしたくないというか、その人なりにいろいろと考えて着てほしいんですよね」
――ジャージもどこか懐かしさを感じますね。ジャージと同じく、かなり着丈の短いテック系のジャケットもあります。
「これは公園でウォーキングを始めた時期に、自分が着たいと思った服。うん、やっぱり人間観察と自分自身の日常がリンクしている気がする(笑)。ナンバリングTも自分が好きで。今回はポリエステルのテカッとしたものではなくウールのメッシュ地を使っていて、それにワッペンもフェルトなんで温もりがある感じに仕上げました」
――〈アンスクリア〉らしいアイテムばかりですね。いろんな素材やディテール、アイデアを取り入れられているけれど、全体を俯瞰した時にどれも岡さんっぽいというか。
「無意識のうちに、着る人を選んでしまっているのかなって考えることもあるんですけどね。余白を持たせずに、これはこういうふうに着てくださいってストレートに伝えた方がいいのかなとか。いろんな人に着てもらいたいという気持ちはあるけど、明確な答えがない分ちょっと難しさもあるのかなって……。でも、そんな迷い以上に街で〈アンスクリア〉の服を着て歩いている人を見かけた際に、あ、こういうふうに着てくれているんだって思った時の方が嬉しくて。毎シーズン、一応私がスタイリングしているルックを通して着こなしの提案はしているものの、それが正解じゃないから。答えはないんだけど、一人ひとりの合わせ方やサイズバランスを見つけてほしいと思いますし、やっぱり私自身が服を着ることが好きだから、着ることを好きになってほしい。そんな想いもあって、あえて考えさせてしまっている感じですかね(笑)」
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