My culture_ART
Nov 27, 2020 / CULTURE
思い出の品をアップデートした
世界でひとつのアートピース
映画や音楽、本にアートといったカルチャーを、『PERK』が注目するINDEPENDENT GIRLがリコメンド。今回は、渋谷のセレクトショップ[GIGINA]のオーナー・吹上恵さんに、ニードルポイント刺繍による一点もののアートピースの魅力を伺った。
EDIT&TEXT_Yuka Muguruma(PERK)
PROFILE
MEGUMI FUKIAGE
彼女がショップを立ち上げるまで
国内外からセレクトした服やジュエリーを中心に、アーティストの作品などを扱う[GIGINA]のオーナーを務める吹上さん。彼女が演出を手がけるショップは、まるでひとつのアートのよう。磨き抜かれた感性による独自のスタイルを貫く彼女に、まずはファッションに興味を持ったきっかけを教えてもらった。
「私がファッションに目覚めたのは、小学校高学年の頃。当時は『コム デ ギャルソン』や『ヨウジヤマモト』、『ケンゾー』といったDCブランドの全盛期で、服好きの母とよく買い物に行っていました。いろんなショップへ足を運んでデザインに触れるうち、私もファッションの世界で生きていきたいと思うようになったんです。父も写真を撮ったり絵を描いたりするのが趣味だったので、もともとクリエイティブなものに関わる機会は多かったのかもしれませんね」
そして、中学を卒業すると同時に上京した彼女。自分のお店を持つことは、学生時代からの目標だったという。
「中学の時に“25歳までに必ず自分の店を持つ”と決めて、地元の高校ではなく東京の服飾専門学校に進学したんです。ファッションシーンで活躍する多くの人と関わるなかで、たくさんの刺激をもらいました。その後、地元の北九州に戻り25歳で[GIGINA]をオープンしたんです。その頃、北九州にはインポートを扱うセレクトショップがなくて、初めての試みということで受け入れてもらえるかという不安もありましたけど、ありがたいことに私のセレクトに共感してくれる顧客さんも多くて。東京に移転してからの期間も合わせて26年間、自分の感性にフィットする服やアートを紹介し続けています」
「フレデリック・モレル」の
作品に惹かれる理由
そんな彼女が今回紹介してくれたのは、ニードルポイント刺繍をベースにしたパリのインテリアブランド「フレデリック・モレル」のカラフルなオブジェ。アートに造詣が深い彼女がなぜこれを選んだのか、その理由を伺った。
「『フレデリック・モレル』の作品は、キャンバス生地全体にウールの糸で刺繍を施す“ニードルポイント刺繍”が特徴。人と自然との繋がりや幸福とは何かをテーマにしたこのブランドは、アダムとイヴ、エデンの庭といった神話からインスピレーションを受けていて。オリジナリティ溢れるデザインと繊細な手仕事、そしてひとつとして同じものがない唯一無二の美しさが魅力です。それだけに値段も張るので、私はこれを買うためにお金を貯めて、5年ほど前にようやく手に入れることができました。これは本物の小鹿ほどの大きさで、今は自宅のリビングに飾っています。実は日本で展示会を催しているタイミングで、デザイナーのフレデリック・モレルとお話したことがあるんです。彼女の作品のアイデアは、亡くなった祖母の遺品を整理していた時に偶然見つけた、ハンドメイドのニードルポイント刺繍から得たものだそう。祖母の思い出の品を時代に合った作品へアップデートできないかと試行錯誤した結果、現在のスタイルを確立したと聞きました。作品自体の美しさはもちろん、モノの背景にあるストーリーにも惹かれますね。
それに加えて、祖母から受け継いだ思い出の品に着想を得た『フレデリック・モレル』の作品は、私の仕事と少し似ているように思うんです。デザイナーが思いを込めて生み出した服やジュエリーに、素敵な空間や言葉を添えることで、魅力を上乗せしながら紹介するのが私の役割。ストーリーのあるアイテムに新たな価値を付与しているという点が、それぞれ共通しているように感じられて。彼女の作品づくりに対する姿勢にも共感しています」
吹上さんにとってアートとは?
最後に、今回紹介してくれた「フレデリック・モレル」の作品同様、自分だけのスタイルを持つ吹上さんのアートに対する考え方、さらには自身の生き方について伺った。
「私はファッションもライフスタイルも、心地いいと感じるものだけに囲まれて暮らしていきたくて。身の回りのものすべてが、自分のスタイルを形成していると思うんです。以前自宅のインテリアを見た人に、『ファッションだけじゃなく私生活もアーティスティックだね』と言われたことがあって。だけど私は感性の赴くまま、自分が心地いいと感じるものを集めているだけで、特に“アーティスティックに生きよう”と思っているわけじゃないんです。アートの受け取り方は人ぞれぞれだから、良いと感じるものも違うし、人によっては『なんでこれがアートなの?』と思うモノもあるかもしれない。正直、アートの定義ってよくわからないですよね。たぶん、私たちの感性とアートの世界はすごく近いところにあって、時に刺激を与えてくれたり、気分を上げてくれたりする。私もそういうものを紹介し、発信し続けていきたいと思います。今、最も興味があるのは空間のデザイン。最近、ディスプレイ関係のお仕事をいただく機会が増えて、ファッションだけじゃなく、感性を揺さぶるような空間も、もっとプロデュースしていけたらと思います」
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