MY CULTURE

#45 鈴木ゆうみ/〈yuumiARIA〉デザイナー

Dec 25, 2025 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

自分らしい価値観やその時々の気分を大事にしながら、オンもオフもマイウェイを行く“INDEPENDENT GIRL”。そんな彼女たちに、物事の考え方やスタイルに影響を受けた映画や音楽、本について話を聞くご長寿連載「MY CULTURE」。45回目の今回はファッションブランド〈yuumiARIA〉のデザイナー・鈴木ゆうみさんに、1982年公開の映画『アニー』のサントラCDやレコード、同じくアメリカのコメディ映画『天使にラブ・ソングを…』、さらには2冊の書籍を紹介してもらった。

PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mizuki Kanno
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

Yuumi Suzuki

2008年春夏シーズンより、古着をベースとした一点もののリメイクライン〈ARIA〉をスタート。自身で厳選したアンティーク素材を中心に取り入れ、一つひとうに思いを込めたスペシャルワンを生み出す。11年春夏よりコレクションラインがスタート。“UNUSUAL”をコンセプトに、ベーシックな女性らしさの中にメンズウェアにある機能性を取り入れたリアルクローズを展開。14年春夏よりブランド名を〈YuumiARIA〉に改名。

https://yuumiaria.net/
@yuumiaria_official

@yuumiariayuumi



色褪せない記憶を原動力に、自由な価値を創造する

ハッピーエンドへの憧憬がもたらす独自の創造性

「これまで触れてきたさまざまなカルチャーのなかで、どれが自分のルーツなんだろうと振り返り、真っ先に思い浮かんだのがミュージカル映画『アニー』でした」
 ビデオショップに勤めていた母の影響で、幼い頃から多様な映像や音楽作品に親しんできたという鈴木さん。なかでも自分自身と同世代の少女が奮闘するその物語は、特別な輝きを持って映ったという。
「最初にビデオを観て、そのあとに青山劇場でミュージカルを鑑賞して。当時の私の家庭環境は、一般的な形とは少し違っていたこともあり、『アニー』の境遇にどこか共感する部分があったんです。どんな状況でも明るく生きることの素晴らしさをこの作品から教えてもらいました。物語が明るい方へ展開していくハッピーエンドのエネルギーが大好きですし、自分のもの作りにも根底でつながっている気がします。〈YuumiARIA〉で展開しているリメイクも、一度は役目を終えて誰かの手を離れた古着に、もう一度光を当てて新しいストーリーを吹き込む作業。どんな時も希望を捨てずに前へ進んでいくアニーの姿は、大人になった今でも私を初心に帰らせてくれる大切な存在です」 

 また、『アニー』をはじめ鈴木さんが多くの作品と出合うきっかけとなったそのビデオショップは、彼女にとって「知らない世界を教えてくれる場所」だった。
「今はタブレットの中で何でも選べるけれど、当時はまだカセットテープの時代。ずらりと並んだパッケージを実際に手に取って選ぶ感覚が、子供ながらに楽しくて仕方がなかったんです。自分だけの“好き”を見つけ出す、あの高揚感。そうやって選んだ作品を、お店のアナログテレビで観ながらよく時間を潰していました。大人になってからもレコードやCD、グッズを集めるのが好きなのは、その名残かもしれません。今はスマホで手軽に聴けるけれど、やはり“もの”として手元に置いておくよさがある。自宅には少しずつ集めたアニーのグッズもたくさんあります」
 現在では、自身のお子さんを連れて『アニー』のミュージカルへ足を運ぶこともあるという。
 「下の子が観劇できる年齢になるのを待って、お姉ちゃんと一緒にみんなで行きました。生演奏のライブとしても楽しめるし、何度観ても色褪せない。今も子供たちと同じ目線で、新鮮な気持ちで感動できる作品です」


『アニー』サウンドトラック
1924年発行の漫画『小さな孤児アニー』をもとに、77年にブロードウェイで上演された大ヒットミュージカルを映画化。鈴木さんは幼少期にビデオを観て、そのあと母親とミュージカルも観劇したそう。CDやレコードといったサントラも聴くほど(レコードは2枚所有!!)、大人になった今でも色褪せることなく好きな作品。

ルールの枠を超えて新たな価値を見出す

 鈴木さんが『天使にラブ・ソングを…』と出合ったのは高校生の時。きっかけは『アニー』とは逆で、映像よりも先に音楽に衝撃を受けたことだった。
「合唱コンクールで別のクラスが歌っていた『天使にラブ・ソングを…』の劇中歌に心を掴まれ、そこから映像を観て大好きになって何度も繰り返し観ました。この作品も、どんどん状況がよくなっていく私の大好きなストーリー展開なんです」
 修道女たちが讃美歌を歌うシーンが印象的な本作だが、当時、鈴木さんが通っていたのもキリスト教の学校だった。毎日讃美歌を歌い、お祈りをする日々。作品の世界観は、当時の自身の環境と強くリンクしていたという。

『天使にラブ・ソングを…』
オスカー女優のウーピー・ゴールドバーグ主演で大ヒットした1992年製作のミュージカルコメディ。ひょんなことからギャングに命を狙われ、修道院にかくまわれることになったクラブ歌手のデロリス。シスターとなった彼女は、パワフルな歌声で冴えない聖歌隊を改革していく。鈴木さんは高校生の頃にビデオのテープが擦り切れるほど観たという。

『天使にラブ・ソングを…』
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発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
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発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
© 2025 Buena Vista Home Entertainment, Inc.

「福島から1時間ほどかけて茨城の高校に通っていました。先生も友達もみんなとても自由で、私自身の世界も一気に広がったんです。『もっと自由にいろんなものを見てみよう』と、自分自身とも向き合うなかで出合ったのが古着でした」
 鈴木さんの学生時代は、ドメスティックブランドの全盛期。ファッション好きな友人たちがブランド服をまとうなか、鈴木さんは古着に可能性を見出す。
「ブランドものは買えないけれど、古着なら手が届く。でも、汚れがあったりサイズが理想通りではなかったりしたので、自分なりに直して形を変えて着ることにしたんです。500円の古着でも、手を加えることで価値を上げていく。そこに一点だけブランドものをミックスして着る楽しさを知り、これを仕事にしたいと漠然と思うようになりました」
 文化服装学院に進学後、パタンナーとしてメンズブランドに就職。しかし、「型にはまる」作業にどこか違和感を抱き、デザイナーへと転身。一つの正解が求められるパタンナーとは対照的に、いくつものアイデアを提案するデザイナーの現場は、鈴木さんにとって自由な発想を解き放てる場所だった。
「〈YuumiARIA〉のリメイクにメンズの古着を多く使うのは、メンズブランドでのアシスタント経験がルーツになっています。それに『天使にラブ・ソングを…』の中で冴えない合唱団が、歌を通じて自分たちの色を見つけて輝きを放っていくように、光の当たらないものに新しい価値を与えて昇華させたいという想いが私の根本にあって。それが私のもの作りの原動力になっています」

 2008年にスタートしたリメイクライン〈ARIA〉は、現在も継続して展開。こちらはメンズの古着のTシャツで、同じ黒でもあえてバンドT以外のアイテムで再構築したパンツ。「光が当たっていないものに光を当てたいというか、あまり選ばれないようなアイテムをいかに選ばれるアイテムに昇華するかというのを考えています」

 

感性をニュートラルに整えるための習慣

 鈴木さんのデザインの源流には、幼少期から心ときめく「ミニチュアの世界」も欠かせない。大切に保管されている一冊の本『Dollhouses:From the V&A Museum of Childhood』が、それを象徴している。
「小さな部屋の中に、一つの完成された世界が広がっている。その密度にワクワクするんです。この本は私が独立したばかりの頃、先輩が海外のお土産にくださったものなのですが、眺めるたびに『自分の想像力のルーツはここだった』と再確認させてくれます。好きなものを色褪せないまま覚えておくことの大切さを、この本が教えてくれるんです」


『Dollhouses:From the V&A Museum of Childhood』
現代美術や古美術、工芸にデザインなど、400万点もの膨大なコレクションが展示されるロンドンの「ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館」、通称“V&A”で販売されたフォトブック。ヨーロッパの小さな建築が掲載されており、幼い頃にこういったミニチュアの世界からさまざまな想像を巡らせるのが好きだったという自身のルーツ的な一冊。

 また、思考が凝り固まった時、頭をリセットするために手に取るのが名著『チープ・シック:お金をかけないでシックに着こなす法』だ。
 「アイデア源というよりは、読みものとして大好きなんです。個性がどうとか、縛られずに自由にファッションを楽しむ描写やテキストの言い回しが心地よくて。読むとすっと気持ちが軽くなる。『洋服はただ着るだけじゃない、自由でいいんだ』と思えるこの本は、私にとっての思考のリセットボタン。そこからまた新しい妄想が始まっていくんです」

『チープ・シック:お金をかけないでシックに着こなす法』草思社
1975年にアメリカの2人の女性ジャーナリストが執筆し、“シティボーイ”という言葉の生みの親で作家の片岡義男氏が翻訳。アイビーや民族衣装などを豊富な写真と共にまとめ、不変のファッション哲学を紹介する。「著者の人たちの何にも縛られていない自由な生き方が凝縮されている文体がすごく好きで、読むごとに気持ちがリセットできる感覚です」

 ブランドを始めて16年。リメイクから既製服まで、毎シーズン幅の広いパターンとデザインで多くのファンを魅了し続ける鈴木さん。その眼差しは、常に「長く愛されるもの」へと向いている。
 「若い方から年齢を重ねられた方まで、世代を問わずに長く着ていただけるものを作りたい。皆さんと一緒に歳を重ねていけるような、そんな温かなブランドであり続けたいと思っています」

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