MY CULTURE

#46 永瀬由衣/アートディレクター

Jan 30, 2026 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

自分軸を大事に日々を謳歌する“INDEPENDENT GIRL”に、人生観や考え方に影響を受けた本や映画、音楽を紹介してもらう「MY CULTURE」。連載46回目となる今回は、音楽アーティストのCDジャケットやテレビポスターのビジュアル制作などを手がけるアートディレクターの永瀬由衣さんに、横尾忠則の図録と脚本家・坂元裕二に関する本、ディズニーアニメ『ふしぎの国のアリス』、JUDY AND MARYのアルバム『THE POWER SOURCE』について話を聞いた。

PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mizuki Kanno
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

Yui Nagase

1991年東京都生まれ。女子美術大学ファッションテキスタイル学科卒業。2014年に株式会社れもんらいふ入社後、22年よりフリーランスとして活動を開始し、同年12月に株式会社Baby Octopusを設立。 CDジャケットや広告、パッケージデザインに空間ディレクションなど、ジャンルを問わず活動中。
@nagaaase
@b_a_b_y_octopus
@hugap_illow



永遠の憧憬を心の指針に、イマジネーションの世界を拡張し続ける

“好き”を貫く行動力が引き寄せた未来への連鎖

 アートディレクター・永瀬由衣さんが作る世界観の根底には、幼少期から父に導かれるように触れてきた、濃密なカルチャーの記憶が流れている。大切に保管されている横尾忠則の図録『冒険王・横尾忠則』は、まさにその好奇心の象徴だ。
「子供の頃から絵を描くことが好きだった私は、高校生の頃は美術コースを専攻していました。富士山の絵を描くことが好きで、でも普通じゃ面白くないからピンクの富士山にしたり、自画像を描く課題でもあえて変な自分の絵を描いたり(笑)。かなり独創的な絵を描く私を見て、横尾忠則さんの大ファンだった父が『絶対好きだから見た方がいい』と勧めてくれたのが、横尾さん作品との出合いでした。この図録は、高校2年生の時に父と行った『岡本太郎美術館』での横尾さんの展示で、横尾さんに直接サインを書いていただいた思い出深い一冊です。横尾さんの代表的なシリーズ『ピンクガール』のような強い色彩の世界観、この色とこの色を合わせたらかわいいんだという直感的な色の組み合わせには、無意識のうちに影響を受けていると思います」


『冒険王・横尾忠則』国書刊行会
1960年代から70年代のグラフィック原画から独自の色彩センスがほとばしる最新絵画まで、およそ600点を収録した作品集。もともとこの本を持っていた父と一緒に「岡本太郎美術館」で催されたライブペイントに足を運び、横尾氏からサインを書いてもらったそう。「ドン! という強い色彩の世界が好きで、結構影響を受けていると思います」

 

 当初はミュージシャン・YUKIへの憧れから、YUKIの衣装制作に携わるべくファッションデザイナーを志し、文化服装学院への進学を夢見ていた永瀬さんだが、高校の先生からの勧めで進学した女子美術大学でアートディレクターという仕事を知る。
「入学と同時にMacでイラレやフォトショを触り始めると、その面白さにすっかり魅了されてしまって。服作りそのものよりも、ファッションを含めたトータルな世界観を構築する方が自分には向いているのかもしれない、と気づいたんです。そんな時に同じ女子美出身の吉田ユニさんや野田凪さんの存在を通して、アートディレクターという職業を知りました。野田凪さんが、YUKIさんの衣装やヘアメイクの方向性まで一貫して手がけていると知った時は、目の前が開けたような感覚でした。『大好きなアーティストに対して、こういう関わり方があるんだ』って。実はそれまで父の職業を詳しく知らなかったのですが、アートディレクターになりたいと母に伝えたら『お父さんもそうだよ』と言われて(笑)。知らず知らずのうちに、父と同じ道を辿っていたんです」
 その後、憧れの吉田ユニに自ら声をかけ現場を学び、千原徹也率いる「れもんらいふ」で研鑽を積むなど、がむしゃらに突き進んだ学生時代を経て、現在はアートディレクターとして第一線で邁進し続ける永瀬さん。当初は、厳しい世界を知るがゆえに猛反対していた父も、今ではいちばんの理解者に。
 「卒業後も千原さんのもとでアートディレクターとしての経験を積み、4年前に独立しました。あの時、自分の直感を信じてアートディレクターという道を突き進んで本当によかったと思います」
 もう一冊、永瀬さんの傍らにあり続けているのが、2018年に夜な夜な「代官山 蔦屋書店」に向かい、ラスト一冊を滑り込みで手に入れたという著書『脚本家 坂元裕二』。そこには、彼女の「天職」へとつながる偏愛の歴史が詰まっている。
「我が家は新聞の代わりに『TVぴあ』を買うような家庭で、新クールが始まるたびに掲載されるドラマの相関図を見るのが大好きでした。中学生の頃から、薄い紙をピリピリと丁寧に切り取っては、当時大好きだった『GALS!』のファイルに大切にファイリングしていたほど(笑)。今でもドラマは毎クール欠かさずチェックしていますが、なかでも坂元裕二さんの作品は別格です」
 いちばん初めに観た『最高の離婚』から、最近5回目を観終えたという『大豆田とわ子と三人の元夫』まで、坂元作品への愛は止まらない。
「セリフの長回しが心地よく、登場人物に悪者がいなくてみんな愛おしい。坂元さんの作品の魅力は、独特の言い回しが心に残る名ゼリフの数々だと思うんです。この本の中でも、セリフが並んでいるページが特に好きで。デザインも可愛いんです」
 かつてはいち視聴者として相関図を眺めていた永瀬さん。今ではアートディレクターとしてドラマのビジュアル制作を手がけている。
「ドラマは生活のベースであり、趣味。それが今ではお仕事にもなっているので、作業の最中もずっと観ています。ドラマのポスターや台本のデザイン、ロゴなどのアートディレクションをやらせていただけるなんてまさに天職で、毎回『イェーイ』って思ってます(笑)」


『脚本家 坂元裕二』ギャンビット
ドラマ界のヒットメーカー、坂元裕二作品の出演者による対談などが掲載された一冊は、2018年の発売当時に仕事帰りに夜な夜な立ち寄った書店で手に入れた。「もともと大ファンということもあり、特に名ゼリフを集めたページが好き。今も坂元さんが脚本を書いたドラマを繰り返し観ていますけど、毎回受け取り方が違って奥が深いです」

忘れたくない自分を取り戻すための空想の旅

 本に続いて、永瀬さんのアイデンティティを語るうえで欠かせないのが、ディズニーのアニメーション映画『ふしぎの国のアリス』だ。
「大人になってから改めて観た時に、『これ、私じゃん!』と衝撃を受けたんです。私は一人っ子だったので、幼少期はいろんな一人遊びを極めてきました。特にシルバニアファミリーに熱中していて、スイカの種をゴキブリに見立ててオリジナリティを加えたり(笑)。常に頭の中でいろんなことを空想していましたし、イマジナリーフレンドもいました。アリスを観ると、そんな当時の自分がフラッシュバックするんです」
 自由な空想に耽っていた永瀬さんだが、数々のクライアントワークを抱えるアートディレクターとしての責任感は、時にその夢の世界を制限することもあるという。
「現実的に考えなきゃいけないことも増え、年々ファンタジーの脳みそが削られつつあるのを感じる瞬間もあります。そこはプロとして割り切っている部分もありますが、一方で、私に求められるのは、私らしい世界観だったりもする。だからこそ、定期的にアリスを観返して『私はこうだった』と自分を取り戻す作業が必要なんです。特にアリスが自分の涙に溺れるシーンは、もうかわいすぎてたまらない。自分を忘れないようにするために、欠かせない一作です」


『ふしぎの国のアリス』
ルイス・キャロルの同名児童小説をもとにした、『シンデレラ姫』のウォルト・ディズニー製作による長編アニメ映画。「世界観も好きだし、アニメ版の色みも好き。時には仕事のインスピレーションを得ることもありますし、私らしさを求めてくださるケースも多いので、自分自身に立ち返らせてくれるような作品でもあります」

『ふしぎの国のアリス』
ブルーレイ+DVD セット発売中
発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
発売・販売元:ハピネット・メディアマーケティング
ⓒ 2026 Disney

すべての始まりとなる永遠のミューズとの出会い

 そして、永瀬さんの今につながるすべてを形成したと言っても過言ではないのが、JUDY AND MARYの存在だ。小学5年生の時にテレビから流れてきた「メランコリニスタ」を耳にして以来YUKIに心を奪われ、中学時代に母の友人から譲り受けたアルバム『THE POWER SOURCE』が決定打となった。
「1曲目の『BIRTHDAY SONG』を聴いた時の衝撃は今でも忘れられません。YUKIさんのかわいさと、バンドとしてのかっこよさ。そこから彼女が誌面を飾る『Zipper』や『H』といった雑誌を読み漁り、一気にファッションやカルチャーの面白さに目覚めていきました。友達と好きな曲の歌詞から連想した絵を描き合う『歌詞交換ノート』をしていたのもこの頃。私の今の仕事の原点は、間違いなくジュディマリが教えてくれたワクワク感にあるんです」 


『THE POWER SOURCE』JUDY AND MARY
ジュディマリが国民的ロックグループとなった名盤にして、ヒットシングル「そばかす」や「クラシック」、「くじら12号」を含む10曲入りの4thアルバム。中学生の時に母の友人から譲り受けたという。「『BIRTHDAY SONG』がいちばん好きな曲。この一枚がカルチャーの入り口になり、ファッションを好きになったきっかけになりました」と話す。

 

 かつて「YUKIの衣装を作りたい」と願った純粋な衝動は、形を変えて今年、永瀬さん自身のプロジェクトをスタートさせる原動力となっている。スタイリストの友人と始めた「hug a pillow,」は、「10代の頃から道路で寝たい願望があった」と笑う彼女の、“好き”が詰め込まれた新しい活動だ。
「今でもYUKIさんは私の永遠のミューズ。彼女のラジオを聴くたびに、その圧倒的な明るさに勇気をもらいます。私もこんなふうに、ポジティブに年齢を重ねていけたらいいなと思います。独立して今年で4年目。自分の原点を見つめ直すターニングポイントでもあって、もっと自分の内側にある世界観を純粋に出せる作品を作っていきたいと思い、作品撮りプロジェクト『hug a pillow,』を始めました。自分がもともと大好きだった世界観を、仕事以外の場所でも表現して発信していきたい。それが巡り巡って、また新しいお仕事につながっていけたら最高です」

ART DIRECTION_Yui Nagase
MODEL_RYOTA
PHOTO_Mirei Kuno
STYLING_hao
HAIR&MAKE-UP_Moe Hikida

@hugap_illow

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