MY CULTURE
Aug 31, 2025 / CULTURE
スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー


自分らしいの価値観やその時々の気分を大事にする“INDEPENDENT GIRL”は、これまでどんなカルチャーに刺激を受け、マイスタイルや自身のファッション哲学にどんな影響を与えられてきたのか。長期連載「MY CULTURE」の42回目は、この秋冬がデビューシーズンとなる〈OHROHEE(オロヒー)〉のデザイナー、パク・ソンヒさんが登場。韓国映画『お嬢さん』をはじめ、イギリスのバンド、ポーティスヘッドや韓国の伝統的な民衆画“ミンファ”の画集などについて話を訊いた。
PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mizuki Kanno
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE
Sunghee Park
韓国・釜山出身。多摩美術大学でテキスタイルデザインを専攻し、卒業後は複数のコレクションブランドにて企画デザイナーとして経験を積む。2025年秋冬シーズンより自身のブランド〈OHROHEE〉を立ち上げる。
@ohrohee
@sungheeparkkk
デザインの原点にある、多種多様なカルチャー
デザインの根源にある、インスピレーションの源泉
「朝鮮と和洋折衷」をテーマにした〈OHROHEE〉のファーストコレクション。東洋の端麗さと西洋の華麗さが調和したエキゾチックな雰囲気は、デザイナーのパク・ソンヒさんが愛するパク・チャヌク監督の映画『お嬢さん』の世界観から大きな影響を受けている。10年ほど前に初めて観て以来、何度も観返しているという彼女のクリエイションの根源にある作品だ。
「センセーショナルなストーリーはもちろん好きなのですが、1930年代の日本統治下の朝鮮半島という時代背景を作り上げる美術のクオリティが素晴らしいんです。当時のデザインを再現したインテリアもあれば、映画のために新たにデザインされたアールデコ調のパターンが壁紙などにも取り入れられていて。美術監督の熱量と技術の高さにも魅了されます」
作中の建築物やインテリア、登場人物の洋服に至るまで、朝鮮・日本・西洋の様式が入り混じる本作。多様な文化の共存も、パクさんの心をときめかせたポイントの一つだとか。
「和洋折衷の生活様式が混在している、1930年代の朝鮮半島と日本の様子が違和感なく表現されています。例えば、お屋敷には和室もあれば、西洋の家具で装飾された洋間も存在します。また、ヒロインの秀子とメイドのスッキが屋敷から逃げ出す時に西洋のドレスを着ている描写は、自立した女性像を表している。逆に権力に抗えないシーンでは着物を着ているなど、登場人物やその時々の状況を衣装や美術で表現する、計算し尽くされたギミックが観るたびに新しい発見を与えてくれるんです」
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『オールド・ボーイ』のパク・チャヌク監督が、イギリスのミステリー作家サラ・ウォーターズの小説『荊の城』を原案としながら、物語の舞台を1930年代の日本統治下の朝鮮半島にアレンジしたサスペンスドラマ。孤児の少女・スッキは詐欺師にスカウトされ、莫大な財産の相続権を令嬢・秀子のメイドとして働くこととなったが……。
監督/パク・チャヌク 原作/サラ・ウォーターズ 出演/キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌンほか 2016年製作/145分/韓国
Blu-ray&DVD 好評発売中
発売・販売元/TCエンタテインメント
©2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

映画を3回ほど観返したタイミングで購入したという脚本。ウェールズ出身の小説家、サラ・ウォーターズによるイギリス版の原作は、「和洋折衷の“洋”にあたるヴィクトリアン時代の背景をより感じたい」と、2025年秋冬コレクションの準備段階の際に手に入れたそう。
同作からパクさんが受け取った世界観は、〈OHROHEE〉のファーストコレクションの細部にまでちりばめられている。
「ヒロインたちが屋敷から逃げ出す、夜が明ける前の午前4時から5時頃の空の色をイメージした”ダークナイトパープル”という色を作り、コートやレザーグローブのカラー展開に加えています。私の好きなパープルに、夜明け前の空のブルーを足したようなカラーです」
もともとテーラリングなどのメンズライクなファッションが好きで、フェミニンな要素を自身のスタイルに取り入れるのは、あまり得意ではないというパクさん。しかし、ヴィクトリアンやエドワーディアン時代のヴィンテージテイストのスタイルには惹かれるのだそう。
「『お嬢さん』にはテーラードもヴィンテージも混在していて、さらに朝鮮・日本・西洋の文化もミックスされている。この作品には、私自身のルーツが凝縮されていることに気づいたんです。そういうこともあって、本作をファーストコレクションのテーマにしようと決めました」
韓国で暮らしていた頃から、大の映画好きだというパクさん。『お嬢さん』以外にも岩井俊二監督の作品、レオス・カラックス監督の『ボーイ・ミーツ・ガール』や『汚れた血』など、映画作品はクリエイションに多くの刺激を与えてくれます。

“ゴダールの再来”と言われたレオス・カラックス監督の初となる長編作品。親友のトマに恋人を奪われた少年・アレックスは、彼をあやめるために夜のパリへと向かうが、時を同じくして失恋した少女・ミレーユと出会い恋に落ちる。1986年『汚れた血』、91年『ポンヌフの恋人』へと続く、“アレックス青春三部作”の1作目。
監督・脚本/レオス・カラックス 製作総指揮/アラン・ダアン 出演/アンナ・バルダッチニ、キャロル・ブルックス、ドニ・ラヴァン、ミレーユ・ペリエ 1983年製作/104分/フランス
「なかでもテッド・チャン原作、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画『メッセージ』は、ここ10年で観た作品の中でいちばん好きです。これがきっかけで物理学に興味が湧き、本を読み漁るようになって、最終的にはカール・セーガンの『コスモス』という本にたどり着いたんです。2026年秋冬シーズンでは、こういった宇宙や物理学をテーマにコレクションを手がけようと計画しています」
伝統と現代が交差する、唯一無二のクリエイション
映画『お嬢さん』の中で、パクさんが特に惹かれたのは、日本統治下の朝鮮半島で権力を持つ日本人たちの中で、ただ一人生き残った朝鮮人のメイド、スッキの存在。彼女を切り取った一枚の写真が、写真集『お嬢さんのそばに』の中で、特に印象に残ったと話す。
「唯一の朝鮮人であるスッキは、物語を大きく動かすキーパーソンであり、多様な文化を上手くミックスさせる存在としてとても魅力を感じました。この写真でスッキが手にしているのは、日本の風呂敷にあたる韓国の“ポジャギ”です。この写真からヒントを得て、今回のコレクションではベルベット素材のバルーン型トップスを作りました。映画の舞台である1930年代頃、ヨーロッパからベルベットが韓国に入ってきて、チマチョゴリの素材として流行したという時代背景も取り入れています」

パク・チャヌク監督による初の単独写真集。写真に対して映画に劣らぬ愛情を持ち、向き合ってきた監督自らが撮った人物や風景が収められている。写真には自身による解説に加え、彼の視線が行き着く空間が細く記録されている。

ファッションを学ぶために日本への留学を決意したパクさん。当初は文化服装学院を志望していたものの、多摩美術大学のテキスタイル科へ進学。その選択が、現在のブランドの基盤になっている。
「韓国にいた当時から〈コム デ ギャルソン〉のような日本のブランドが好きで、その独創的なテキスタイルの使い方や色の組み合わせに魅力を感じていました。改めて進路を考える時にテキスタイルを勉強したいということに気づき、母からのアドバイスもあって進路を変更。多摩美でテキスタイルデザインを学んだあとも洋服を作りたいという気持ちは変わらず、いくつかのアパレル企業でデザイナーの経験を積みました。いつか自分でブランドをやるならテキスタイルから開発したいと思っていて、〈OHROHEE〉の世界観に合うクラシックなプリントを考えていた時に、韓国ならではの画風である“ミンファ”に行きつきました。それを用いて、私ならではのオリジナルのパターンを開発しようと思ったんです」

2025年秋冬シーズンのテキスタイルのヒントとなった“ミンファ”の画集。ミンファとは民衆画、民衆の芸術という意味を持ち、朝鮮王朝時代に庶民や無名の画家によって描かれた韓国の伝統的な民衆画を指す。桃は長寿、蓮は豊かさ、牡丹は富など、絵のモチーフはそれぞれ象徴的な意味が存在する。

ミックスカルチャーが生み出す新しい表現
高校生の時に夢中になって聴いていたというイギリスの音楽グループ、ポーティスヘッド。彼らの音楽性は、パクさん自身のファッション観とも重なるそう。
「当時の韓国では、異性を意識したフェミニンなファッションが主流でしたが、私は自分の個性を表現するスタイルが好きで。インディペンデントな思想を表現している日本のブランドに惹かれていたのも、そのためかもしれません。音楽も同じで、ポーティスヘッドは韓国の大衆音楽とは一線を画していて、その独自の世界観に魅了されました」
中学生の頃はヒップホップ、高校生になるとUKロックやユースロックに夢中だったというパクさん。なかでも、ヒップホップとエレクトロニカをミックスした“トリップホップ”というジャンルを確立したポーティスヘッドに衝撃を受けたそう。
「〈OHROHEE〉のコレクションも、さまざまな要素をミックスして新しい世界観を作り出すことを意識しているので、ポーティスヘッドの音楽とは通じる部分があると思います。今いちばん夢中になっているアーティストのコスモ・パイクも、ジャズやロックといった多彩な要素を混ぜて彼自身の音楽を生み出しているんです。多種多様な文化が混ざり合うことで、まったく新しい何かが生まれる。昔も今も、そういうものに惹かれるんだと思います」
1991年にシンガーのベス・ギボンズとトラックメイカーのジェフ・バーロウによって結成。“トリップホップ”というジャンルの枠を超え、90年代から00年代の音楽に大きな影響を与えたブリストルサウンドの先駆者。なかでもパクさんがレコメンドしてくれた「Sour Times」は、94年リリースのデビューアルバム『Dummy』に収録。
「Sour Times」ポーティスヘッド
1991年にシンガーのベス・ギボンズとトラックメイカーのジェフ・バーロウによって結成。“トリップホップ”というジャンルの枠を超え、90年代から00年代の音楽に大きな影響を与えたブリストルサウンドの先駆者。なかでもパクさんがレコメンドしてくれた「Sour Times」は、94年リリースのデビューアルバム『Dummy』に収録。