MY CULTURE

#41 MAMI/「OOO YY」ディレクター

Jul 30, 2025 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

マイスタイルを謳歌し、自身をアップデートし続ける“INDEPENDENT GIRL”は、今までどんなカルチャーに触れ、どういった影響を受けてきたのか。月いち公開のレギュラーコンテンツ「MY CULTURE」、41回目は代官山にあるヘアサロン「OOO YY(オーオ シカシカ)」MAMIさんが登場。ケリー・ライカート監督・脚本のヒューマンドラマ『ウェンディ&ルーシー』、4人組の覆面バンド、ザ・タイマーズの楽曲「デイ・ドリーム・ビリーバー」、そして『谷川俊太郎選 茨木のり子詩集』を紹介してもらった。

PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mizuki Kanno
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

MAMI

2018年に「OOO YY」ディレクターに就任し、サロンワーク、スタッフ教育を中心に行う。品のあるモードなスタイルを得意とし、お客さんだけでなくモデルや俳優のヘアも担当。広告やファッションショーではヘアメイクとしても活躍している。
https://www.ooo-yy.com
@nakazonomami
@oooyy_hair

精神的支柱を作った思考の羅針盤

想像力が導く、社会への問い

 MAMIさんが気の合う友人たちと不定期で活動している「映画部」のメンバーから、「好みに合いそうな作品」と勧められたのが、2008年製作の『ウェンディ&ルーシー』。作品全体に“余白”が多く、想像力が掻き立てられるような映画が好きなMAMIさんにとって、「自分が好きな映画の指針になるような作品」との出合いになったという。
「この映画を観て裏テーマは“貧困”だと思いました。アラスカに出稼ぎに行く女性の話なんですけど、なぜ出稼ぎに行っているかなどの背景は描かれておらず、大人になりきれない彼女の少女のような立ち振る舞いが原因で、不運な境遇に見舞われてしまう。そのたびに社会から正論を突きつけられるのですが、背景のわからない人の“貧困”を自己責任論で片付けてしまっていいものなのかと深く考えさせられました」

 『ウェンディ&ルーシー』
『マリリン 7日間の恋』のミシェル・ウィリアムズが主演を務め、愛犬とともに旅をする女性が思わぬ苦難に直面する姿を描いたヒューマンドラマ。職を求め、愛犬ルーシーと車でアラスカを目指していたウェンディ。道中、オレゴンで車が故障し足止めされて、彼女の所持金もルーシーのペットフードも底をつき……。
監督・脚本/ケリー・ライカート 出演/ミシェル・ウィリアムズ、ウォルター・ダルトンほか 2008年製作/80分/アメリカ
『Kelly Reichardt: Six Films』/ケリー・ライカート Blu-ray Collection ¥39,600
収録作品:『リバー・オブ・グラス』River of Grass(1994年)、『オールド・ジョイ』Old Joy(2006年)、『ウェンディ&ルーシー』Wendy and Lucy(08年)、『ミークス・カットオフ』Meek’s Cutoff(10年)、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』Certain Women(16年)、『ファースト・カウ』First Cow(19年)
封入特典:ブックレット(48P)、その他特典:三方背ボックス

 休日は、シネコンやミニシアター問わず、映画館で映画を楽しみ、その感想を「映画部」の仲間内で共有し合っているのだそう。
「最近も『バッドランズ』を観ました。『ウェンディ&ルーシー』の監督、ケリー・ライカートの最初の作品『リバー・オブ・グラス』が、『バッドランズ』の影響を受けたと聞いて、ずっと観てみたかったんです。あと、話題作で言えば『国宝』も。やっぱり映画館で映画を観るっていいですよね。大切な趣味の一つです」

ポジティブなメロディが歌う、前を向くための心得

「ザ・タイマーズの『デイ・ドリーム・ビリーバー』は、清志郎さんがお義母さまを亡くされた時に書かれた歌詞だそうで。お義母さまが本当は育ての親だったことを亡くなってから知り、それでも『ずっと夢見させてくれて ありがとう』とポップなメロディで歌い上げる。悲しいことや辛いことがあっても明るく昇華させるのっていいなと思ったんです」

「デイ・ドリーム・ビリーバー」ザ・タイマーズ
忌野清志郎に酷似している“ZERRY”が率いる4人組の覆面バンド、ザ・タイマーズ。「デイ・ドリーム・ビリーバー」はアメリカのロックバンド、ザ・モンキーズによる楽曲の日本語カバーで、1989年にリリース。ZERRYの深い愛を感じ、日本で初めての真のパンクバンドと言われた確かな反骨精神は、現在に至るまで多くのアーティストたちに影響を与えている。

「デイ・ドリーム・ビリーバー」ザ・タイマーズ
忌野清志郎に酷似している“ZERRY”が率いる4人組の覆面バンド、ザ・タイマーズ。「デイ・ドリーム・ビリーバー」はアメリカのロックバンド、ザ・モンキーズによる楽曲の日本語カバーで、1989年にリリース。ZERRYの深い愛を感じ、日本で初めての真のパンクバンドと言われた確かな反骨精神は、現在に至るまで多くのアーティストたちに影響を与えている。

 美容師のアシスタント時代にそのインタビュー映像を目にしたことで、より深くMAMIさんの心に響いたのだという。
「アシスタント時代は正直、未熟でした。丸4年アシスタントをしていたのですが、辛さやきつさばかりが勝ってしまい、振り返ると『こんな美容師になりたい』という精神的な支柱となる目標がなかったように思います。でもある日から、あまりそう思わなくなったんです。心のモチベーションを保てたのは、この曲との出合いが大きく影響しています。何事も明るく、ポジティブに捉えようと思えるようになったんです」

言葉が心を耕し、経験が道を拓く

 MAMIさんのアシスタント時代を支えたもう一つの作品が、茨木のり子さんの詩だった。なかでも「自分の感受性くらい」という詩は、当時の彼女の心に強い衝撃を与えたという。
「ストレートな言葉で、胸をグサグサ刺してくるんです。スタイリストのデビュー前に読んで結構くらって、自分の精神を確立する一つの指標になりました。若い頃って、何かと他責にしてしまいがちですよね。『ウェンディ&ルーシー』を観た時とは逆の意見になってしまうかもしれないですが、自分のことは自分で責任を持たなきゃなと思いました。アシスタント時代にこの詩に出合った時は、『ちゃんとしなきゃ』と奮い立たせられましたが、今は『自分の機嫌は自分で取ってこ』と、また違った解釈ができるようにもなりました。もっと余裕を持って、物事と向き合ってもいいのかなと」

『谷川俊太郎選 茨木のり子詩集』岩波文庫
青春時代を戦争の渦中に過ごした若い女性の悔しさと、それゆえの未来への夢。歯切れのいい言葉が断言的に綴られる、主張の強い詩、論理の詩。ある時は初々しく震え、またある時は凛として顔を上げる。雑味のないストレートな表現で、人の背中を押してくれる“現代詩の長女”によるエッセンス。MAMIさんは、“自分の感受性くらい 自分で守れよ ばかものよ”の一節が特に好きという。

 スタイリストとしてデビューしてから10年以上が経ち、今ではディレクターとしてサロンを支える存在のMAMIさん。デビュー当時は、お客さんとのコミュニケーションに一喜一憂し、それが辛いと感じる時期もあったが、年齢やキャリアを重ねたことで見える景色も変わってきたのだという。
「スタイリストになったばかりの頃は、お客様が来なくなっちゃったりすると、正直すごく辛くて一人で抱え込んで悩んでしまうこともあったんです。でも今は、お客様がご自身の好きなタイミングで来てくれたら嬉しいなっていう考えに変わりました。そこでずっと悩んでいるよりも、今私のそばにいてくれるスタッフや目の前のお客様を大切にしようって思えるようになったんです。もちろん、今でもお客様に喜んでいただけることがいちばんのモチベーションなのは変わらないですし、そのためにもっともっと自分自身を磨いていきたい。将来的には日本全国、それから海外でも、美容師としていろいろなお客様と出会って、向き合ってみたいです。ただ拠点は東京のまま。この場所で、これからも美容師を続けていきたいと思っています」

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