MY CULTURE

#35 NATANE/ヴィジョナリー クリエイター

Jan 06, 2025 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

マイスタイルを確立する“INDEPENDENT GIRL”に、自身のアイデンティティに強い影響を与えられたカルチャーについて語ってもらう連載コンテンツ。第35回目はハンドメイドアクセサリーブランド〈añil〉のディレクターやフォトグラファーなどとして活動するNATANEさんに、アメリカの伝記青春映画と日本の劇作家による青春小説集を中心に紹介してもらった。

PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

NATANE

なたね/1996年インド生まれ。スペイン人と日本人の両親と共にアジアの国々を旅したのち、12歳の頃に日本に帰国したと同時にモデルとしてキャリアをスタート。現在は、デザイナーである母と立ち上げたハンドメイドアクセサリーブランド〈añil(アニル)〉のディレクションやフォトグラファー、犬猫のための情報誌 『Cuddle magazine』の制作など幅広く活動中。
@natanedayo

自分らしさを深めていく
カルチャーショックと創作活動

私らしいスタイルを形成した、あの時の原体験

 アンニュイな表情に、自然体なのにどこか雰囲気のあるファッションやヘアメイク。NATANEさんのスタイルには、単純には形容しがたい独自のセンスが光る。まずは、そんな彼女が思春期に影響を受けたという一本の映画について教えてもらった。
「『17歳のカルテ』は、10代後半のいわゆるティーンエイジャーと呼ばれる世代の女の子たちの物語。私もちょうどそのくらいの年齢の時にこの作品と出合って、思春期特有の悩みを抱える主人公が、精神病棟で同世代の女の子たちと共にいろいろな経験をして大人になってゆくというストーリーに、当時の自分のなかにあった感情とリンクする部分もあって強く惹かれました」

『17歳のカルテ』
監督/ジェームズ・マンゴールド 出演/ウィノナ・ライダー、アンジェリーナ・ジョリー、クレア・デュバル、ブリタニー・マーフィー 配給/ソニー・ピクチャーズエンタテインメント 
スザンナ・ケイセンの自伝『思春期病棟の少女たち』を原作に、ウィノナ・ライダーが製作総指揮と主演を務め、精神科を舞台に少女たちの友情と心の葛藤を描いた青春ドラマ。アンジェリーナ・ジョリーが存在感たっぷりにリサを演じ、2000年に第72回アカデミー助演女優賞を受賞した。

「衣装やヘアカット、女の子たちの会話や態度のすべてにかっこいいとかわいいが詰まっていて、すごくインスパイアされました。例えば、アンジェリーナ・ジョリー演じるリサが登場するシーンで着ていたミニサイズのTシャツにスキニージーンズというシンプルなファッション。『Tシャツとジーンズでこんなにかっこいいんだ』と、当時カルチャーショックを受けたことを覚えています。そこからアンジェリーナ・ジョリーやウィノナ・ライダーの当時の格好を、ピンタレストとかで探したりしていました。音楽もファッションも映画から影響を受けることが多くて、私の好きなものの原点は映画が多いですね」

創作欲を刺激する本と写真の世界

 古本屋に行くのが好きだというNATANEさん。100円の棚から、タイトルや表紙の気になる本を手に取っているのだそう。だからか、本棚には面白そうなタイトルの本がたくさん並んでいる。そこから取り出したのは、『グレート生活アドベンチャー』というアングラな香りのする一冊の小説集だった。
「特に好きなのは、後半の『ゆっくり消える。記憶の幽霊』というお話。何か物語が進行していくのではなく、崖から飛び降りた女性が死にゆく時間のなかで走馬灯を語っていくという展開が独特で、書き方が面白いんです。あらすじを聞くと暗そうなんだけど、そんなことはなくって『なんだこのストーリーは!』と衝撃を受けました」

『グレート生活アドベンチャー』前田司郎
19歳で劇団「五反田団」を旗揚げし、2004年に「家が遠い」で京都芸術センター舞台芸術賞を受賞した前田司郎による青春小説集。本作で芥川賞の候補にノミネートされるなど、話題と注目を集め、熱狂的に支持されている。
発行元:新潮社

「写真集やZINEも好きで集めています。なかでも川島小鳥さんの写真展で購入した手のひらサイズのZINEがお気に入り。お祭りの金魚すくいの袋に入って販売されていて、すごくかわいかったんです。小鳥さんの撮る写真ってマジックだなって思っていて。日常をこんなにフォトジェニックに切り取れるのが本当に素敵で、大好きな写真家さんです」

NATANEさんのお気に入りのZINEたち。写真中央が川島小鳥さんのZINE、その左が2020年に制作した『colza』、中央下が今夏に制作した『Blossom Jazzy』。

「だいたい年に一度のペースで、ZINEのイベントに合わせて自分でも制作するようにしていて、今年は写真選びからプリント、製本まで一から手がけました。また、2020年に出した『colza』は、“Love Your Color”をテーマに作っていて、当時“Love Your Self”という言葉が広告などで多く使われていたと思うのですが、そういうポジティブなメッセージが嬉しい反面、プレッシャーに感じることもあって。自分を愛することは、自分の色を愛するという言葉にも直訳できるから、自分の色を愛そうというテーマに辿り着いて、私なりのメッセージを伝えたいなと思って作りました」

より多くの人に届けるためのクリエイション

 昨年から友人と立ち上げた犬猫のための情報誌『Cuddle magazine』。活動のきっかけから、制作するうえで大切にしていることまでを訊いてみた。
「最初は“チャリTシャツ”という、私の写真をTシャツにプリントしてその利益の100%を寄付するという活動をしていたのですが、寄付先の愛護団体をいろいろと調べていくうちにたくさんの側面を知ったんです。ただ寄付をするだけでなくて、もっとフラットな情報発信ができるプラットフォームが大事なんじゃないかと考えるようになって、その想いに共感してくれたフォトグラファーの友人と共に立ち上げました」

「パッと見ただけでは動物愛護の冊子に見えないということも意識して、かわいくて手に取りたくなるクリエイティブを大切にしています。第一号では、犬猫を飼っている方、飼おうとしている方に向けてわかりやすい情報をまとめていて、防災に備える情報や愛犬・愛猫の健康チェックリスト、犬や猫だけでなく人間も食べることのできる手作りごはんのレシピなどを載せています。手に取ったかわいい冊子の中に有益な情報が載っていて、そこを入り口に考えることがいろいろな対策につながる。受け取り方は人それぞれですが、まずは最初の知る場を『Cuddle magazine』で作っていけたら嬉しいです」

 最後に、NATANEさんがこれからやりたいことについて教えてもらった。
「来春を目標に、訪れる人がカルチャーに触れることのできるコンセプトストアのような場所を作りたいなと計画しています。私自身、子供の時にかっこいい格好をしていた人やかっこいいものに触れる機会があったことにすごく感謝していて。学校帰りの子供たちがふらっと立ち寄って、『何これ?』とか言いながらZINEを立ち読みしたり、そこにはいい感じの音楽が流れていて、そっと刺激を持ち帰れるような場所にしたいです。今っていろんな情報が溢れていて、これがかわいいとか、人気の映画とか、イケてる音楽というように勝手に促されてしまうこともあると思うんですけど、選択肢の幅を広げて、自分のものさしを持てるような子供たちが増えていったら、もっと豊かな世界になるんじゃないかなって思うから。周りから変に思われるようなものを好きでいてもいいし、何を好きでもいい。そのために好きと思えるものやかっこいいと思えるものに触れる機会を作っていきたいと思っています」

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