MY CULTURE
Oct 28, 2024 / CULTURE
スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー
マイスタイルを謳歌する“INDEPENDENT GIRL”に、自身のアイデンティティに強い影響を与えられたカルチャーについて話を聞く連載コンテンツ。第33回目は、ファッションブランド〈ODAKHA〉のデザイナー小髙真理さんに、T.Rexの3rdアルバムやゴダールによるSF映画、ベルギー人アーティストのパナマレンコの展示会カタログを紹介してもらった。
PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)
PROFILE
Mari Odaka
勇気や刺激を与えてくれる
音楽や映画、アートのチカラ
褪せることのない魅力を放つ
グラムロックの金字塔
学生時代からビートルズやデヴィッド・ボウイといった60年代、70年代を中心としたUKロックシーンが好きだったという小髙さん。今回用意してもらったT.Rexの名盤『The Slider』は、音楽性はもちろん、ジャケットのグラフィックにも強い衝撃を受けたのだそう。
「父の影響でビートルズやボブ・ディランなどを小さい頃から聴いていた私が、T.Rexと出会ったのは高校生の時。浦沢直樹の『20世紀少年』実写化映画の主題歌として再燃していたということもあり、友人たちの間でも注目されていたんです。特に惹かれたのは、ジャケットで使用されているビートルズのリンゴ・スターが撮影したマーク・ボランのポートレート。モノクロ写真に真っ赤なバンド名の対比が鮮烈で、みるみる引き込まれました。このレコードはどうしてもジャケットを手元に持っておきたくて、大学生ぐらいの頃に手に入れました。のちに〈ヒステリックグラマー〉から発売された、この写真をプリントしたバンドTシャツも買って、今でも大切に持っています。ビートルズが築き上げた王道のロックンロールから、グラムロックへと移行していった70年代前半。その時代特有のざらっとした華やかさが好きです。〈malamute〉でグラムロックをテーマにしたシーズンがあって、それまでニットブランドとして何年かやってきていたのですが、その時に初めて布帛を使ったアイテムを出したんです。ニットと布帛をかけ合わせてグラムロックの雰囲気を出せないかというところからスタートして、制作期間中はこのアルバムやデヴィッド・ボウイの『ジギー・スターダスト』をよく聴いていました。グラムロックが時代の転換機となったように、私たちの服もニットブランドとしてだけでなく、トータルのファッションブランドになっていきたいと考えるヒントになりました」
クリエイションの刺激になるSFの世界
フランス映画の巨匠ジャン=リュック・ゴダールが、1965年に発表したハードボイルドSF映画『アルファヴィル』。もとよりSFの世界観が好きだと語る小髙さんにとって、この作品との出合いはブランドのシグネチャーにも通じるインスピレーション源となっている。
「DVDのジャケットに映るアンナ・カリーナの姿に惹かれて手に取ったのですが、初めて観た時は途中で寝てしまったんです。でも、それを知り合いに伝えたら、『そこがゴダールの良さなんだよ』と言ってくれて。眠くなるけれど、なんだか無性に気になって繰り返し観ていくうちに、場面の絵力の強さや独特の演出が美しくて好きな作品になりました。未来都市の設定なのに、パリの街並みで撮影されていたり、レトロフューチャーのおもちゃのようなセットなのですが、モノクロフィルムで撮影されていることでエッジがきいていてとてもかっこ良く見えるんです。ちなみに、〈ODAKHA〉のシグネチャーアイテムであるガイノイドニットは、本作のアンナ・カリーナから着想を得ています。ここで描かれる機械的にプログラミングされた世界や人がインスピレーションになり、女性型ヒューマノイドを意味するガイノイドと名付けて、ギャザーフレアの流れるようなシルエットが特徴のアイテムが生まれました」
美意識を追求し続けるための勇気がもらえる一冊
アントワープ出身のパナマレンコは、生涯をかけて飛ぶことを想定しながらも実際にはほとんど飛べない「飛行機」や「飛行装置」、独自の理論に基づく「磁気航空装置」など、自由で詩的なテクノロジー作品を作り続けたアーティスト。機能性と美意識のせめぎ合いという視点で、小髙さんは強いシンパシーを感じるという。
「数年前に渋谷で行われていたシュルレアリスムに関する展示で、パナマレンコというアーティストを初めて知りました。大好きなSFの世界観ではありながらも、本気で空を飛ばそうとロジカルに向き合う姿が面白いし、モノづくりを行う者として勇気をもらっています。きっと彼はアート作品として振り切っているのではなく、毎回本気で考えているけれど、最終的に美意識の方が勝ってしまうタイプなのかなと思っていて。私も協力いただく職人さんたちと密にコミュニケーションを取って、現実的な制作過程を模索しながらも妥協したくないところはとことん考えるタイプなので、そういう点に共感を覚えます」
この話の流れで、“The Arrival of Spring”と題した2024年秋冬シーズンのコレクションにおけるインスピレーションについても話を聞いた。
「今シーズンは、昨年開催された『デイヴィッド・ホックニー展』で鑑賞した絵画からインスピレーションを受けています。彼は年代を追うごとに多様な表現手法、画材、技術を駆使して身近な人々やもの、目の前で起きている出来事など日常の風景を描くことで知られていて、なかでもiPadで描かれたラッパスイセンの鮮やかな色彩に目を奪われました。そのスイセンの黄色をキーカラーに、活気あるコレクションに仕上げました。日常を描く、というつながりで連想したジム・ジャームッシュ監督の映画『パターソン』もインスピレーション源の一つです。劇中でアダム・ドライバー演じる主人公が着ているような〈バラクータ〉のG9ジャケットをイメージしてアウターを制作しました」
最後に、今後のブランドとして目指す形についても教えてもらった。
「これからの目標は、〈ODAKHA〉になってから毎シーズンビジュアル撮影でご一緒している写真家の小見山峻さんと写真集を作ること。もう少しアーカイヴが溜まってからになりますが、ブランドとして伝えたいメッセージを、写真集を通して届けられたら嬉しいです」