MY CULTURE

#29 Manaha/編集者、DJ

Jun 13, 2024 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

マイスタイルを謳歌する“INDEPENDENT GIRL”に、自身のアイデンティティに強く影響を受けたカルチャーについて話を聞く連載コンテンツ。29回目を数える今回は、編集者、DJとして活動するManahaさんにヴァージニア・ウルフの小説と2つの映画音楽を教えてもらった。

PHOTO_Michi Nakano
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)
LOCATION_Sasazuka Bowl

PROFILE

Manaha

WEBメディア『The Fashion Post』のエディター。2013年からDJデュオ、An toiとしても活動。都内を中心に音楽パーティやファッションイベントに出演。22年より自主企画イベント「TOGENKYO」を不定期で開催している。
@manaha_hosoda

美しい物語を紡ぐ
言葉と音楽の魅力

日常を美しく昇華させる表現力

 普段はファッションメディアの編集者として、ビジュアルディレクションから執筆まで、幅広く活動を行っている Manahaさん。学生時代からフランソワ・サガンや小川洋子、江國香織といった国内外の女性作家の作品に数多く触れてきた彼女にとって、20世紀のモダンな女性像をリードしてきたヴァージニア・ウルフ作品からは特に多くの影響を受けたという。
「ヴァージニア・ウルフと出会った高校生の頃から、今もずっと時代のパイオニアとして活躍してきた女性たちに強く惹かれるんです。それはフェミニズム的な文脈に関係なく、純粋に女性ならではの感覚や感性に共感できることが多いから。この作品は、6人のキャラクターたちが入れ替わりながら独白形式で語ってゆく実験的な構成が特徴的ですが、その中でときおり挿入されるアンビエントな自然描写がとても美しく惹き込まれます」

「太陽の光や波のきらめきといった同じ地球で起きている普遍的な景色も、彼女ならではの繊細な表現によってより美しく生まれ変わる。私も自分自身のフィルターを通して感じた言葉を文章に添えることで、どこか非現実的でドラマチックな感覚を伝えることができたらといつも意識しています」

『波』(新訳版)ヴァージニア・ウルフ

20世紀のモダニズム文学を代表する英国人作家、ヴァージニア・ウルフの名作が初刊行から90年の時を経て、45年ぶりの新訳版として刊行。男女6人がそれぞれの半生を振り返る独白形式で物語が進み、寄せては引いてゆく波のように繰り返される語りや、美しくも繊細な風景描写が斬新でファンの多い一冊。
発行元:早川書房

ルーツとしての映画音楽とリミックス文化

 DJとしての顔も持つ彼女が音楽の世界へと深く足を踏み入れるきっかけとして、物語に彩りや緩急を添える映画音楽の存在が大きかったのだそう。私物のアナログレコードの中から、特に影響を受けたという2枚について教えてもらった。
「ブライアン・イーノの『By This River』を初めて聴いたのは、インディーズ映画にハマっていた高校生の時。アルフォンソ・キュアロンの『天国の口、楽園の階段』という作品の中で流れるメロディに衝撃を受けました。当時の私にとっては初めて聴くような音楽でしたが、どこか子供の頃から大好きだったジブリ映画の世界観を作る久石譲の音楽とも近いような気がして、そこからブライアン・イーノのほかの作品にも興味を持つようになりました。このアルバムは全体を通しても秀逸で、アップテンポな楽曲から疾走感たっぷりに始まったかと思えば、B面からシリアスなムードになってゆく、まるで音から一つの映画を見ているような印象があります」

上:『LOVE ON A REAL TRAIN』WILLIAMS 
トム・クルーズ主演、80年代の青春映画『卒業白書』のメイントラックとして知られる「Tangerine Dream」の楽曲をリミックスした名盤。
下:『Before & After Science』ブライアン・イーノ
ブライアン・イーノアンビエント界の巨匠、ブライアン・イーノの4作目として知られる本作。なかでも、アルフォンソ・キュアロン監督作『天国の口、終わりの楽園。』の挿入歌である「By This River」は必聴。

「もう一つは、映画『卒業白書』の主題歌として知られるタンジェリン・ドリームの『Love on a Real Train』。これはWILLIAMSによるリミックスバージョンなんですけど、DJを始めたきっかけにはこういったリミックス文化の影響があるんです。DJを始めたての頃はダンスミュージックをあまり聴いておらず、ダフトパンクなどのフレンチエレクトロやインディーロックのバンドが好きだった私は、さまざまなアーティストによってリミックスされたそれらの楽曲からDJでかける曲を選んだりしていました。映画がきっかけで音楽をより好きになり、そこからリミックスされたトラックを自分のDJでプレイしている。そんな私の音楽のルーツを伝える一枚としてこの作品を選びました」

ジャンルレスに夜を繋ぐ「TOGENKYO」

 現在渡英中のHitomiさんと共に東京とロンドンという2つの都市で、An toi名義で活動を続けているManahaさん。2022年から開催している自主企画の音楽イベント「TOGENKYO」は、DJデュオの50minimalsを共同主催に迎えてパワーアップ。彼女たちが信頼を置くさまざまなジャンルのアーティストたちとコラボレーションを行っている。
「普段からハウスミュージックをメインにDJをしているのですが、自分たちでイベントをやる時は、ハウスを中心としながらもいろんな音楽をかけたいと思っています。初回は憧れていた寺田創一さんを筆頭に、同世代のLittle Dead Girlなど東京で切磋琢磨してきたDJたちにオファーしました。なかでも念願のブッキングだったのがJesus Weekendのライブパフォーマンス。ダンスミュージックというわけではありませんが、彼女の音楽にも映画のような物語性を感じることができて、デビューとなったEPからは大好きな映画『グラン・ブルー』のムードを感じています」

『Rudra no Namida』(Cassette Tape)Jesus Weekend 
大阪を拠点に活動していた同名バンド、Jesus WeekendからSeira Nishigamiのソロプロジェクトへと発展してから自主リリースされた1stカセットEP。雨や波の自然音とギターやシンセサイザー、オルガン、電子音による軽やかで奥行きのあるサウンドがクセになる。

「個人的にクラブイベントは、ひと晩をみんなで繋いでゆくものだと思っています。最初はダウンテンポからスタートして、ピークタイムに向けて緩急をつけながらBPMを上げてゆき、ラストは多幸感に包まれて、誰かの記憶に残ってくれたらいい。だからこそ、私たちのイベントでは全体の方向性を示すプレゼンという役割も兼ねて、An toiがトップバッターを務めることが多いですね。また、ピークタイムにあえて、いわゆるダンスミュージックとは異なる実験的なアプローチを取り入れてみたり。一瞬の静まりが集中を高めて、独自の空気を生み出してくれる。そういった瞬間が私たちの目指す桃源郷なのだと思っています」

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