cinecaのおいしい映画
May 25, 2020 / CULTURE
“むき出しの銀紙”
映画を題材にお菓子を制作する〈cineca〉の土谷未央による連載。 あなたはこのお菓子を見て、何の映画かわかる? 自分が知っていたはずの映画も、視点や考え方を少し変えるだけで全く違う楽しみ方ができる。それは、とてもアーティス ティックで素敵な感性。
Re-Edit / PERK 2017 November Issue No.22
“陽の目を浴びずに輝くものがある”
気がつけばいつも仮面を被っていた。なんてことは、人付き合いの上では当たり前の時代なのかもしれない。だれもがパッケージングする方法を手に入れ、違う自分になりすます。そのうちに自分の頭が肥大して足元が見えずらくなり、先の道を見失う人もいるだろう。
仮面というのは厄介で、人を強気にさせてくれるものでもあったりする。いつもは言えないこと、出来ないこと、恥ずかしいことの表現をも可能にしてしまう優れものだ。
映画『FRANK』の登場人物フランク(マイケル・ファスベンダー)は素顔を隠してバンド活動をするカリスマミュージシャンだ。その様は中身の見えないパッケージされたお菓子の箱のように見えた。
美味しそう、食べてみたい、を精一杯表現したパッケージの開け口からピーっと紙を捲ると現れる銀紙に包まれたお菓子。大抵は大切に二重包装されている。一つ目の包装を解くと銀紙が姿を現す。こちらはあまり注目されることなく、さっさと破り捨てられてしまう程度の存在。そしてついに身ぐるみ剥がされ裸になったお菓子をよく見れば…お菓子…だ。もしかすると、パッケージングの違いがお菓子の違いでもあり、生身のお菓子に辿り着くまでの行為が特別(のような)なものと錯覚させているだけのことなのだろうか。
“素顔”はどのタイミングで見せたらいいのだろう。そもそもどれが自分の素顔なのか分からなくなっていることも多いし、パッケージされた自分との距離に息苦しさを感じたりもする。そんなときに誰かが一枚パッケージを剥がしてくれたら、せめて銀紙の状態になれたら、すこしは風通しがよくなり息がしやすくなる…? というかその銀紙一枚が、人との距離を絶妙に保つバランサーにもなり得る可能性を秘めた大切な下着のような存在、にも思える。
フランクの素顔は主人公ジョン(ドーナル・グリーソン)のバンド加入によってどんどんむき出しになっていき、最後には仮面がはずれ、どこにでもいるような男が現れる。才気は消えるが、まだ銀紙は剥がされていない。その証拠に彼は痛々しくも他者を愛する歌を唱うことができたのだから。この世はまだ捨てたものじゃないと。
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