Dec 20, 2024 / CULTURE

西洋占星術師の淡の間による
PERK的12星座コラム

古代ローマの詩人・マニリウスは、著作『占星術または天の聖なる学(Astronomica )』の中で、人間の事象や地上の出来事を占星術的世界観と結びつけました。彼が解いた星の世界のように、この世のさまざまな出来事や生活、文化(Culture)を占星術的世界観と結びつけてみること。日常に溢れる占星術的象徴を示すカケラを拾ってみたり、単独化された一つのピースとしての「星座占い」ではなく、「星の影響はすべて自分の中にある」と体験してみること。そんな風に、たまには占いだけではない「星」の入口があってもいいのでは?「私は〇〇座だから」という一方向だけの狭いキャラ付けにとどまるだけではもったいない。「私の中にもこの星座の世界が存在しているのかな?」という広い視点で感じてもらえたら嬉しいです。この連載が一周する頃には、「ASTRONOMICULTURE」を通して内なる多面的な星座の世界のグラデーションやレイヤーを感じることができますように。今月は、やぎ座のおはなし。

TEXT_Aynoma
ILLUSTRATION&TITLE DESIGN_YUUKI
EDIT_Yoshio Horikawa, Maria Ito(PERK)

やぎ座の季節
やぎ座の精神性
やぎ座の生き方
やぎ座の信念
やぎ座の時期に生まれた人たち
次なる旅への誘い

やぎ座の季節
 冬至、真っ暗な闇の中。昼も夜も肺いっぱいに吸い込む空気が一番冷たくて美しい時。そして年末年始、新旧の移り変わりで高揚と憂鬱が同居する時。それが毎年恒例のやぎ座の季節。やぎ座をひと言で表すならば、「高み」を求める星座です。“山の羊”と書いて山羊は、高い山の急斜面を一気によじ登ることができる屈強な体幹を持つ動物。「山」の動物の名を冠するにふさわしい頂(いただき)を目がけて登り切る様は、人生の目標(自分なりの高み)を目指して一心不乱に向き合い続けるやぎ座の人たちの生き方にもリンクします。

やぎ座の精神性
 やぎ座は時間を重んじます。それはやぎ座を支配する天体が土星・時の神クロノス(サタルヌス)であることも関係しているのかもしれませんが、時間をかけて作られたものを好んだり、それ相応の成熟した価値を求めたり、明確な目的に対して時間をかけようとします。やぎ座にとっては時間こそ価値であり、それに値する自分でありたいという姿勢が行動に現れるだけ。それゆえに努力することはなんら特別でもなく、至極当たり前の行動だと思っている節があります。
 自分を高みに連れて行けるなら、あるいは相応の価値を手に入れられるなら、どんな力もいとわない。それが野心的だとかバイタリティに溢れているとか言われたとしても、本人としては人よりちょっと欲張りなだけ。それが世間一般的に“努力”と言われていることを、正直よくわからずやっているのかもしれません。

やぎ座の生き方
 やぎ座の理想は、誰も到達できない孤高の存在。磨かれた宝石の輝き。歴史ある庭園や宗教施設(仏閣、ドゥオーモなど)のような荘厳さ、伝統的な工芸品、時間をかけて生み出された本質的な価値のあるもの。一朝一夕では手に入らない質実剛健なものたち。それらに相応しい自分でありたいと心から願います。成熟したものを好むゆえに、未熟なものを許すことができません。それは自分に対しても他者に対しても同じです。真面目で堅くて努力家で……みたいな、優等生の代名詞みたいに語られるやぎ座のイメージに対しても(若干の優越感を感じつつも)本当は窮屈で窮屈で仕方ない。実際にストイックの権化みたいな人も多い反面で、信じられないくらいルーズで好色で、欲深く、惰性的な一面を同居させるという非常に極端な二面性を持つのもまたやぎ座の特徴です。簡単に言うと、表向きは非常に真面目な人ほどだらしない部分があるというふうに捉えても良いかと思います。真面目さが際立つほどふざけたくなる。そうやって、なんとかバランスを取っているのでしょう。
 少し複雑な形をしたやぎ座のマーク(♑️)は、上半身が山羊、下半身が魚の姿をしている様子が描かれています。この三分節(上身・中身・下身)に分かれたシンボルは過去・現在・未来という「時間」の流れを示すとも言われ、例えば山形県における山岳信仰の修験道・出羽三山の山々も前世・現世・来世をそれぞれ示すと言われています。山を登ることを人生に例えてみましょう。登山という行為は、頂に登ろうとするやぎ座の人生をそのまま表すかのようです。そんな“山の支配者”こと、やぎ座の生き方は「時間」を支配すること。ちなみに、やぎ座を支配する土星の神クロノス(サタルヌス)は、時間と因果応報を司る業(カルマ)の神。やぎ座の精神に根付くのは生まれながらにして自分が背負っている課題(業)であり、それを受け入れるために要する時間の重要性のこと。 
 やぎ座のシンボルである下半身の魚の部分は、ギリシャ神話では怪物テュポンから逃れようと川を泳ごうとした時に慌てて変身したので半分だけ魚になってしまったとか、あるいは黄道12宮の正式名称である磨羯宮(まかつきゅう)の磨羯=マカラ(インド神話に出てくる空想の魚)であるとか、山羊と魚の同居シンボルとしての言い伝えが多いのですが、これはやぎ座の質が示す理性と欲の二面性の同居とも謳われています。その欲こそが業であり、世の理でもある。その構造を知っているからこそ、誰よりも欲深い自分を律して生きようとします。タロットカードの「悪魔」に描かれるのは、欲に負けた恋人たちと彼らを欲望の道に導く悪魔。その悪魔は山羊の見た目をしています。

やぎ座の信念
 やぎ座はトップに立ちやすいとか支配者の星座とも言われますが、もう少し解像度を上げて解説すると、あらゆる構造を管轄する適性が強いために“結果的”にリーダーや支配者、代表になっているというだけです。なろうと思ってなったわけではなく、結果的にそうなってしまいやすいのです。しかし自分なりの構造を重んじるがゆえに、ほかからの介入を極端に嫌います。山の頂に立つやぎ座の精神は、自らの上に立とうとする誰かを拒絶します。やぎ座ほど強欲な人はいません。この欲は自分が求める結果や評価のことでもあり、それを手に入れるためならいくらでも時間を費やすことをいとわないのです。一方で「価値がない」と一瞥したものには目もくれないほど無駄を嫌う合理的な部分もあります。あらゆるヒエラルキーの頂点に君臨する、その構造そのものを支配したいという潜在的欲求がやぎ座によっての「結果を出したい」、「何者かになりたい」ということだったりします。そういう匂い立つ野心が表に現れぬよう、なんとかひた隠しにすることが返って真面目に見えたり、もしくはその思いの罪滅ぼしのように「自分ができることで世の中の役に立てるなら」という思いが芽生え、社会や組織に対する貢献意識につながることもあります。
 やぎ座冥王星時代(2008〜24年)をのちに振り返る時、「マウンティングする」、「パパ活」、「パンデミック(※covid-19による世界的緊急事態)」などのキーワードが生まれたことを私たちは思い出すでしょう。これらすべて、まさしくやぎ座的世界のキーワードというか、そのエリアに集った天体の影響が時代背景にそのまま色濃く現れた代表例のようなもの。 
 「パパ=父性」もやぎ座、もとい土星の管轄であり、マウンティング行為は言わずもがな。パンデミックの語源=「パニック」は、前述の神話で紹介した怪物テュポンの出現によって牧神パーン(やぎ座の神)が半狂乱になったことから生まれた言葉。これほどにホロスコープの性質が時代に反映されるのも興味深いものです。一方、みずがめ座の位置に冥王星が移動したことで、一斉を風靡したこれらの文化が新たな時代の始まりと共に淘汰されていくことをこれから目の当たりにしていくのでしょう。祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。形あるものはいつか崩れるもの。新陳代謝をしながら時間と共に朽ち果てていくものや自らの結果を超える新たな文化や勢力を受け入れて時代の栄養になっていく、それもまたやぎ座の業(カルマ)なのかもしれません。

やぎ座の時期に生まれた人たち
 宇多田ヒカル、深津絵里、松任谷由実、坂本龍一、北野武、Cocco、宮崎駿、BTS・V、ケイト・モス、フィービー・ファイロ、ティモシー・シャラメ。

次なる旅への誘い
 魂の乗りものとも言える肉体に内包された私たちの魂は、成長を求めてあらゆる経験を重ねます。時間をかけて手に入れた結果を抱きしめて次なる未来、水瓶座の世界へ。

※引用  
佐治晴夫著 『からだは星からできている』、マルクス・マニリウス著『占星術または天の聖なる学(Astronomica )』

PROFILE

淡の間(あわいのま)
西洋占星術や西洋神秘学、タロットカード、ヨーロッパ発祥の自然療法などを学び、オリジナルのカウンセリングや講座などを展開しながら地球を修行中。占いのほか、コンセプト監修や文章も執筆。「GINZA」のWEBサイト、「kufura」などに連載を持つ。2025年版のオリジナルダイアリーが公式サイト、または全国の取り扱い店舗にて絶賛発売中。
@aynoma.jp

PROFILE

YUUKI
“セルフラブ”をテーマにイラスト、作詞、クリエイティブディレクション、壁画アートなど幅広く手がけるアートクリエイター。
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