MY CULTURE
Feb 27, 2026 / CULTURE
スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー
“INDEPENDENT GIRL”にこれまで影響を受けた本、映画、映画について話を聞く「MY CULTURE」。連載47回目にして最終回となる今月は、「ビームス」でPRを務める渡邊かれんさんに、1998年公開のコメディ/SF映画、考え方のヒントがちりばめられた2冊の本、さらには69年のリリース以来、多くのアーティストによってカバーされるビートルズの名ナンバーを紹介してもらった。
PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mizuki Kanno
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE
Karen Watanabe
宮城県出身、千葉県育ち。2019年に「ビームス」に入社。3年間の販売スタッフを経て、現在はビームスの宣伝・プロモーションを担当。たまにコンテンポラリーダンスを踊る。趣味は映画鑑賞と眠ること。
@__karen.ism__
舞台で学んだ演出の視点を武器に、
日常を彩る新しいカルチャーを届けていく
仲間と“面白い”を模索するクリエイションの環
ビームスの宣伝課で、企業の枠を超えた多角的なプロモーションを担うかれんさん。彼女のクリエイションの原点は、大学時代に没頭した舞台演出とダンスの世界にある。
「大学では演劇学科の洋舞コースを専攻し、舞台演出を学んでいました。題材を探すために映画を浴びるように観ていた時期に出合ったのが、『トゥルーマン・ショー』です。コメディ調のジャケットに惹かれて観てみたのですが、最後に突きつけられる絶望に度肝を抜かれました。世の中の不安な側面を、エンターテインメントとして成り立たせている演出がアメリカらしい印象的な作品です。当時の私は、一本の映画を撮るような感覚でダンス作品を手がけていました。舞台全体の流れを考え、物語性や抽象表現を織り交ぜたり。自分も踊り手として仲間の作品に出演しながら、年間を通して一人で一つの作品を徹底的に作り込む日々は本当に刺激的でした」
クラシックバレエから始まった彼女の表現への探究心は、いつしか「一つの作品を作り上げるプロセス」そのものへの興味へと変わっていった。
「ダンサーとして踊り手になるだけではなく、次第に音楽や衣装、照明を含めた総合的なクリエイションに惹かれていきました。舞台作りの工程って、今の宣伝課での仕事と似ている部分が多いんです。まず伝えたいコンセプトがあり、それを形にするためにフォトグラファーやデザイナーといった各分野のプロフェッショナルと対話し、一つのアウトプットに向けて動いていく。私にとって、その表現の出口が“踊り”から“プロモーション”に変わっただけ。根本にある“みんなで面白いことを模索して作る楽しさ”は、学生時代からずっと地続きなんです」



『トゥルーマン・ショー』
離島の町で保険会社のセールスマンとして働いていたジム・キャリー演じるトゥルーマン。自分の人生そのものが世界中の視聴者を楽しませるために作られたリアリティ番組だと知った彼は、ある行動に出る。「コメディ作品だと思って途中まで楽しく観ていたんですが、気づいてはいけないことに気づいてしまった……、みたいな衝撃的な作品でした」

『トゥルーマン・ショー』
Blu-ray:¥2,075 / DVD:¥1,572
4K Ultra HD+ブルーレイ: ¥6,589
発売・販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
©︎1998 2015 by Paramount Pictures.
※記事公開当時の情報です。
心をニュートラルに戻す言葉たち
自らの“感覚”を指標にさまざまな選択を重ねてきたかれんさんが、その感覚の言語化に悩んだ時に手に取ったのが、クリエイティブディレクター・水野学による著書『センスは知識からはじまる』だった。
「これまで私は、何を選ぶにしても『なんとなくこっちがイケてる』という自分の感覚を頼りにしてきました。でも、お仕事で『なぜこれがいいのか』を周りに伝えなければならないシーンが増えて、自分の感覚を言葉にできないことに悩んでいたんです。そんな時にこの本を読んで、ハッとしました。センスは生まれつき備わっている感覚だけじゃなく、実は『どれだけたくさんのことを見て、聞いて、知っているか』という、知識の積み重ねから生まれるものなんだって。自分が素敵だなと思うもの、かっこいいと感じるものの裏側には必ず理由がある。どれだけ多くの物事を知っているかが、そのままセンスの深さにつながっている。そう気づかされ、自分の無知さに少し反省しつつも、『これから学んでいけば、センスはもっと磨いていけるんだ』と学び直す勇気をもらいました」
そんな“学び”の時期に、SNSで知った松浦弥太郎さんのエッセイも、彼女の仕事に対する姿勢を大きく変える一冊となった。
「ずっと踊り一筋で生きてきましたが、ダンサーだけで生活していくことの厳しさを思うと、自分がその第一線で活躍し続けるだけではなくて、自分が生きていくための“衣食住”をまずは大切にしたい。そのために一度自分の力でお金を稼いで自立しようと決めて、『ビームス』への入社を選んだんです。キャリアのスタートは、地元にある『デミルクス ビームス 柏』の店舗スタッフから。知り合いのお母さんが買い物に来たりして、最初はめちゃくちゃ恥ずかしかったです(笑)。柏で1年、そのあとは新宿の店舗を経て、今は宣伝課という部署にいます。商品をPRするプレスとは少し違って、ビームスが培ってきたコミュニティやカルチャーそのものをアウトプットすることが仕事。イベントを企画したり、本を作ったり、決まったルーティンワークがまったくない変動的な部署なのですが、仲間とアイデアを出し合って面白いことを模索するのは、舞台を作っていた頃の感覚に近くて楽しいんです。社会人になって7年。日々の忙しさに追われるなかで出合った弥太郎さんの本は、読むのが遅い私でも一気に読み終えてしまうほど、心に響く言葉で溢れていました。特別なことが書いてあるわけではないけれど、そこには“ご機嫌に生きるためのヒント”が詰まっていました」
本の大事な箇所には丁寧に折り目をつけて、その言葉を自分の中に落とし込んでいるそう。なかでも胸を打たれたのは、仕事の本質を説いた一節だと話す。
「『仕事とは、感動を与えること』。弥太郎さんのこのひと言に、すべてが凝縮されている気がしました。世の中にはいろんな仕事があり、もらえるお給料もそれぞれ違いますが、その差はきっと『どれだけ多くの人に感動を届けられたか』の量なんだ、と。派手な成功を追い求めるよりも、日々の小さなことに幸せを感じ、穏やかな心で誰かに感動を届けたい。そんなふうに、感性をニュートラルに戻してくれる一冊です」

『センスは知識からはじまる』水野 学
「くまモン」の生みの親として知られるクリエイティブディレクターによる一冊。センスとは生まれ持った特殊な才能ではなく、あらゆる分野の知識を蓄積することからはじまると説く。「例えばイケてる、イケてないって言語化が難しいと感じていた時に出合いました。確かにそうかもって腑に落ちる箇所が多くて、仕事にも活かしたいですね」


『自分で考えて生きよう』、『ご機嫌な習慣』松浦弥太郎
文筆家、編集者、書店主など幅広く活躍する著者によるエッセイ。仕事や家族、趣味、日々のルーティンといった暮らしにまつわる小さな示唆が、丁寧な語り口で綴られている。「当たり前だけれど、逃してしまいがちな大切なことに立ち返ることのできる言葉たち。特に『ご機嫌な習慣』の『仕事とは感動を与えること』の一編が好きです」
心の静寂とフラットな視点
日々、情報がざわめく宣伝課の仕事。その中心に身を置きながらも、かれんさんをフラットな状態に戻してくれるのは、中学生の頃に聴いた一曲の音楽だった。
「両親が音楽好きで、常に洋楽や邦楽が流れている家庭で育ちました。中学生の時に、家にある父のアルバムを聴いたのが、ビートルズの『アクロス・ザ・ユニバース』。その宇宙的な響きとシンプルな音色に惹かれて、初めて歌詞をちゃんと調べてみようと思った記憶があります。今でも仕事で行き詰まった時や寝る前など、ふとした瞬間に聴き返しています。歌詞にもあるように、世の中がどれだけ騒がしくても、自分自身の大事な部分は変わらない。聴いていると、一度地球に帰るというか、自分をニュートラルな状態に戻してくれるんです」
空間演出への憧れ、衣装への好奇心、そしてダンスをより身近なものにしたいという純粋な願い。彼女のイマジネーションは、自身のルーツであるダンスを軸に、自由に、そしてフラットに拡張し続けている。
「最近はプロモーションの仕事を通じて、自分のルーツであるダンスに触れる機会も増えています。でも、日本だとまだ踊りを観に行くことへのハードルが高いなと感じることもあって。海外では、海辺の野外ステージで開放的に踊りを楽しんだり、家族でラフにバレエを観に行ったりするのが当たり前だったりする。そんなふうに、日本でも劇場という枠に縛られず、もっとみんながラフにダンスを楽しめる入り口を、お仕事を通じて作っていけたらハッピーだなと思います。将来的には、空間演出やライブの装飾、VJのように、そこに行かないと感じられない圧倒的な体験の場所を作ってみたい。あとは舞台衣装の部分にも、もう少し関わっていきたいと思います。国や時代ごとにも個性があって、眺めているだけでワクワクするんです。自分が培ってきたダンスの知識と、『ビームス』で学んでいるファッションやプロモーションをかけ合わせて、まだ誰も見たことがない新しい表現をアウトプットしていきたいです」
「アクロス・ザ・ユニバース」ビートルズ
“紙コップへと流れる言葉は止むことのない雨のよう”で始まる歌詞は楽曲発表当時のジョン・レノンの妻、シンシアが延々と話し続けたことに由来。「何かに迷ったり、考えが堂々巡りになったりした時に聴く定番ナンバー。“何があっても私の世界(信念)は変わらない”という言葉に救われます。アコギとボーカルのシンプルなサウンドも心地よくて大好き」