His Inner Music
Jul 11, 2025 / CULTURE
彼を奏でるオト・モノ・コト
#03 荒谷翔大


心の赴くままに奏でる、偽りのない音楽
飾らない自身の感情と真っ直ぐに向き合い、時に繊細に、時に荒々しく、心の輝きを音に昇華する荒谷翔大。彼が音楽を続けるその理由とは? 自分らしさを音楽で表現する“INDEPENDENT”なアーティストたちの創造の源泉を探る音楽連載。彼の深い思索と、そこから生まれる音の真髄を紐解く。
PHOTO_Cho Ongo
EDIT&TEXT_Mizuki Kanno

PROFILE
Shota Aratani
荒谷翔大/時代が求めていた歌声を持つ、シンガーソングライター。2023年12月、ボーカルとほぼ全曲のソングライティングを手がけていたバンド・yonawoを脱退。24年4月、1stシングル「涙」よりソロ活動スタート。その歌声と詞は、今を生きる人たちの言葉にならない想いを代弁し、混沌とした時代に生きる希望を灯す。25年3月にメジャー1st EP「ひとりぼっち」、5月に「ピーナッツバター」、6月1に「真夏のラストナンバー」を立て続けにリリース。初の弾き語り全国ツアーを経て、11月に二度目のバンドワンマンツアーが開催される。
@araaraaratani
https://aratanishota.com/
「何に心が揺れたのか、“きらめき”を感じたのかを指針に、
そこから楽曲の世界観を拡張させていく」
――初めに、荒谷さんの音楽のルーツや原体験について教えてください。
「純粋な音楽の原体験で言うと多分幼稚園くらいの時、母が掃除をしながら流していた松任谷由実さんや竹内まりやさんなどを思い出します。特にノラ・ジョーンズが子供心にも響いて、アルバム『Come Away With Me』を聴くと幼少期の風景が浮かんで、心が落ち着くんですよね。音楽を作りたいと思ったのは小学6年生の頃、ビートルズに出会ったのがきっかけです。テレビでジョン・レノン特集をやっていて、彼自身の生き様や姿勢が音楽に落とし込まれているのが、小学生ながらにかっこいいなと思って」

「中1の頃からアカペラで曲を作り始めました。その頃、yonawoのメンバーのyuya(yuya saito)にも出会って。所属していたサッカーのクラブチームが一緒だったんです。yuyaの家にはギターやレコードもたくさんあって、彼との出会いで楽器にも触れるようになったし、音楽の話もたくさんしました。当時、yuyaと作ったデタラメな英語の曲は、今でも口ずさめます(笑)。高校進学の時点ですでに音楽しかやりたくなくなっていたので、卒業後は英語の曲を作るために、ワーホリでバンクーバーに行きました。カナダ人の友達とシェアハウスをしていて、僕はクローゼットに住んで。バイトして、現地の友達と遊んで、あとはずっと制作していました。英語を学びたくて留学したはずなのに、日本語のよさに気づかされて向こうでは5lackさんやPSG、EVISBEATSさん、田我流さんなど、日本のヒップホップばかりを聴いていました」
――海外で生活したことで、荒谷さんの表現の幅も縦横無尽に広がったんですね。
「バンクーバーはめちゃくちゃ大きかったですね。音楽もそうだし、自分の人生観的にも大きく変わったと思います。お金を貸したら戻ってこないなんてこともありましたし(笑)。貸さない後悔よりも貸した後悔の方がいいですよね、きっと。でも、当初は進学するかすらも悩んでいた高校で刺激的な友達に出会えたこと、そこで培った経験も作った曲もたくさんあるので、結局、無駄なことは一つもなかったなと思います。東京事変やはっぴいえんどにも高校時代に出会って、日本のロックのかっこよさを知りましたし。どの経験も今の音楽活動には欠かせない財産になっています」

――曲作りで大切にしていることやインスピレーションの源はなんですか?
「“きらめき”を大切にしています。映画や小説などの作品に触れた時や適当に楽器を鳴らして出てきた音、ふと耳にした言葉だったり。何に心が揺れたのか、“きらめき”を感じたのかを指針に、そこから世界観を拡張させていくのが僕の制作の方法です。映画も、小説も、音楽も。作品って、自分の中にあるものを鏡のように映してくれるから、心が動かされるんだと思うんです。自分の中の不確かな何かを作品を通して見出せた時、ようやく客観的に自分自身が見れるんだと思います。きれいだな、美しいな、悲しいなというさまざまな感情が、自分の作品にも乗せることができたら素敵だし、もしそれを聴いた人にも、写し鏡のようにその感情が芽生えて、思い出が蘇ってきたらすごく嬉しいです」

「僕が表現したものに対して誰かの心が揺れてくれているなら、
音楽を続ける意味がある」
――音楽活動を続けているなかで悩んだり、立ち止まったりした経験はありますか?
「yonawoの2ndアルバム『遙かいま』をリリースした辺りが、まさにコロナ禍だったんです。当時はまだ福岡にいたんですけど、かなり悶々としていてしんどかったですね。レコード会社が数字(売上)を共有してくれるんですけど、それまでは漠然としていた音楽活動が一気に現実味を帯びてきて、『戦っていかないといけない』みたいな意識に苛まれてしまって。ビジネスとして成立させないとダメだということは理解しつつ、自分が届けたいこととか、作りたいものとのバランス感が難しくて考えさせられました。それを挫折と呼ぶのかはわからないですけど、初めての感情でしたね。メンバー間でも考え方はそれぞれだし、誰かがリーダーシップを取っているわけでもないので、ふわっとしてしまって。当初は『音楽で食べていければいい』ということを目標にバンドを組んで、マネジメントから声がかかり、レコード会社からも声がかかり、わりとトントン拍子で進んじゃったんです。そしたら『音楽で食べていければいい』っていうのがあっという間に叶っちゃって、全員の指針を見失ってしまったんです。次はどこで足並みを揃える? って。この状況を変えるには福岡から出ないといけないと思い、上京してきた感じです。それがよかったのか悪かったのかは、わかりません」
――音楽への好きという思いで走り続けてきた荒谷さんにとっては、必要な時間だったのかもしれないですね。好きなことを続けるうえで、大切にしていることはありますか?
「自分も苦労したので、『好きなことしなよ』ってなかなか人には言えないですね。苦労と好きを天秤にかけた時に、どっちが幸せかですよね。でも一つ思うことは、好きなことを続けるためにも“きらめき”は大切だと思います。自分が音楽に触れることで心が“きらめく”ので、それと同じように僕が表現したものに対して誰かの心が揺れてくれているなら、続ける価値というか、意味があるのかなと思います。そのためにはまず、自分が揺さぶられないと。じゃないと、聴いてくれる方と真に心でつながれないと思うんです。その一方で“きらめき”を見出せない時間も必要で、だからこそ立ち止まって考えることができる。そういった思考のプロセスを大事にしています」
――ご自身の心が揺さぶられる瞬間と、それが聴き手の心に響く瞬間が重なる時、音楽を続ける意味を感じられるんですね。
「最近、改めて『なぜ音楽をやっているのか』を考えることが多いのですが、僕にとってはそれが 『なぜ生きるのか』という哲学につながるし、作品を生み出す原動力であり、その先の“きらめき”につながるんですよね。もともと宇宙が好きで、天文学者になりたかったんですよ。宇宙規模で物事を考えているうちに、『なんで僕がここに存在してるんだ?』みたいな問いを抱くようになりました」

「多分、一生答えはでないと思いますが、問い続けることがすごく大事で、僕にとってそれが作品を作ること、歌い続けることだなって思うんです。もしかしたら、そこに意味や価値がなかったとしても、音楽への衝動を大切にしたい。意味や価値があるのか考え続けたいし、それを曲にしたいなと思います。僕の音楽に皆さんが“きらめき”を見出してくれて、漠然と抱えていた孤独だったり、不安が少しでも解消されたらすごく素敵だなと思います。心が揺れている限りは生きたいと思えるので」
His Favorite Things
Item

「福岡でよく行くハンバーガーショップ『ペトロールブルー』のトートバッグがお気に入りで、ずっと使っています。大きなキーホルダーをつけたりもしています」
Fashion
「トレンドには疎くてあまり追えていないんですけど、ジーンズは昔から好きですね。ジョン・レノンさんやアークティック・モンキーズ、尾崎豊さんといった僕の好きなアーティストもデニムの印象がすごく強いので、多分、無意識にジーンズをはいているところがあるんだと思います。衣装としてはくこともありますが、あまり作り込みすぎたくない、着飾りたくないという気持ちがあって。そういった自分のスタイルにとても合うんですよね」
Book
「西加奈子さんの『サラバ!』です。18歳の時に読んで、初めて小説って面白いなと思いました。バンクーバーに行く前の心境にもめちゃくちゃリンクしていて、この作品がきっかけで本をたくさん読むようになりました」
Movie
「ジブリ作品が大好きで、『千と千尋の神隠し』が特に好き。あとは『青い春』も好きで、この作品がきっかけで主題歌を歌っているTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTが好きになりました。兄が録画していたのを高校生の頃に観て、当時の揺れ動く不安定な心と共鳴しました」
Music
「風をあつめて」はっぴいえんど
「日本語で詞を書こうと思ったきっかけになった曲。yonawoの由来にもなった中学の同級生で、音楽好きのヨナオくんが教えてくれたんです。真夏の暑い日に僕の家に遊びに来て、かけてくれた曲。“風をあつめて”という言葉にもやられました」
「イマジン」ジョン・レノン
「僕が音楽を始めるきっかけになった曲だし、ジョン・レノンとオノ・ヨーコさんのストーリーが描かれていて、何度聴いてもやっぱり名曲だなと思います」
「Untitled」ディアンジェロ
「意識してブラックミュージックを聴くきっかけになった作品。リズムの取り方が革新的で、音楽的に好きな曲です。ストイックなMVも衝撃的でした」
INFORMATION
ONE MAN LIVE TOUR “Last Number”
11月10日(月)@代官山UNIT / 東京
開場18:00、開演19:00
前売(スタンディング)¥4,500ドリンク別
Info : 050-5211-6077(HOT STUFF PROMOTION)
11月21日(金)@心斎橋JANUS / 大阪
開場18:30、開演19:00
前売(スタンディング)¥4,500ドリンク別
Info : 06-6341-3525 (YUMEBANCHI)
11月22日(土)@新栄Shangri-La / 愛知
開場17:30、開演18:00
前売(スタンディング)¥4,500ドリンク別
Info : 052-936-6041(JAIL HOUSE)
チケットオフィシャル一次先行受付(抽選)
https://w.pia.jp/t/aratanishota/
期間:7月11日(金)20:00〜21日(月・祝)23:59