MY CULTURE

#34 中友香/書道家

Nov 20, 2024 / CULTURE

スタイルのある女性に聞く
愛しのカルチャーヒストリー

スタイルのある“INDEPENDENT GIRL”は、これまでどんなカルチャーに触れ、影響を受けてきたのか。連載第34回目は、国内外で活躍の場を広げる書道家の中友香さんに、今年2月に4Kレストア版でリバイバル上映された『テルマ&ルイーズ』、自身がタイトル題字を手がけた石川さゆりさんのシングル「越後瞽女」、107歳まで生きた美術家・篠田桃紅さんによる著書について話してもらった。

PHOTO_Shunsuke Kondo
TEXT_Mikiko Ichitani
EDIT_Yoshio Horikawa (PERK)

PROFILE

Tomoka Naka

中友香
小学1年生で正筆会に所属。高校卒業後は社会人として、ブライダルやアパレル業界を経験するなかで、“自分らしくいられる時間=書道と向き合っている時”であると再認識し、正筆会師範を取得。2019年に書道家として独立、フリーランスに。現在は個展やオーダー作品制作、ワークショップなどを催している。
@naka.tomoka

自分らしい生き方を切り拓く
女性たちの物語

新しい生き方を見つけてゆく、主人公たちに自身を重ねて

 高校卒業後は地元のホテルに就職し、ウェディングプランナーとして働いていたという中さん。20代半ばで自分の人生を見つめ直し、上京を決意。ずっと好きだったファッションと書道を仕事にすべく、新しい環境で奮闘する最中に友人の勧めで出合った映画『テルマ&ルイーズ』に背中を押されたそう。
「昔からファッションやカルチャーの面で、90年代のアメリカに強い憧れがありました。この映画はそういった当時のアメリカのムードがファッションやランドスケープに色濃く表れていて、観ていてとにかく刺激を受けたことを覚えています」

「この作品は2人の女性のロードムービーなのですが、当時は近いタイミングで上京した地元の友人とルームシェアをしていて、その子と一緒にDVDを借りて観たということもあり、個人的な思い入れがあります。上京したてで右も左もわからないという点ではどこか旅に近い感覚もあったので、劇中で進むべき道を切り拓いてゆく主人公たちを見て、とても冒険心が掻き立てられました」

©1991 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved. 
©1991 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

「あの頃はアパレルの販売員として大好きなファッションの仕事を始めたものの、書道家としてはまだ何も活動をしていなくて、ぼんやりと考えていたレベル。一緒に暮らしていた友人も会社員として働いていましたが、本当にやりたいことを探しているタイミングだったので、テルマとルイーズという何者でもなかった女性たちが切磋琢磨をしながら新しい自分を見つけてゆく姿に自分たちを重ねて、強く惹かれたんだと思います」

『テルマ&ルイーズ』4Kレストア版
DVD ¥4,400(税込)
発売・販売元:KADOKAWA

『テルマ&ルイーズ』 
抵抗と自由を求める女性という革新的キャラクターとして愛され続けている、スーザン・サランドンが演じるルイーズとジーナ・デイヴィスが演じるテルマ。女性2人の冒険と友情を描き“女性版アメリカン・ニューシネマ”と評された、リドリー・スコット渾身のロードムービー。

日本独自の文化を届けたいという想いを鼓舞する一曲

 演歌とは幼少期から馴染みが深かったという中さん。2023年には石川さゆりさんのシングル「越後瞽女」の題字を担当。仕事として携わったことで、日本の伝統的な文化をより多くの人へ届けたいという思いがいっそう強くなったのだそう。
「小さい頃から実家に家庭用のカラオケ機器があって、親族が集まるといつもカラオケを楽しんでいました。そこでかかるのは演歌がお決まり。私も小さい頃からたくさん聴いてきていたので、この楽曲の題字のオファーをいただいた時は本当に驚きました。石川さんはとってもチャーミングな女性。10代でデビューされて、50年以上も歌の世界で突き進んでこられた方なので、実際にお会いしてとても多くの刺激を受けました。石川さんの力強い歌声や歌詞に込められたメッセージには、いつも鼓舞されます。私も書道という伝統文化を世界に向けてもっと表現していきたいとより強く思いましたし、特にこの曲は新たな挑戦に向かって『やるぞ!』と気合いを入れたい時に聴いています」

「越後瞽女」石川さゆり
2022年にデビュー50周年を迎え、近年は演歌・歌謡曲にとどまらないボーダレスな活動を続ける石川さゆり。23年10月にリリースされた本作は、1本の三味線と声だけで自らの人生を切り拓き、その飾らない力強さと迫力で人々の暮らしにパワーを提供していた「越後の瞽女」を歌で表現している。

余白を際立たせる暮らしと書

 書の域にとらわれず、107歳まで独自の表現を追求し続けた美術家の篠田桃紅さん。研ぎ澄まされた感性や人生哲学は、亡くなった今もなお多くの人々を魅了している。篠田さんの展覧会に足を運ぶたびに書籍を購入するほど強い憧れを持っている中さんに、その魅力を訊いた。
「ひと昔前までは、女性が書道家を志すことをなかなか認めてもらえない風潮があったんです。そんな時代のなかで、旧来的な仮名文字を脱して独自の前衛書というスタイルを世の中に向けて進んで発表し続けた、篠田さんの生き方に感銘を受けます。また、篠田さんの作品は空間を巻き込むような力強さがあって、日本人ならではの余白や間の使い方がとっても素敵なんです。今でもページをめくるたびに多くの影響を受けています」

「篠田さんの言葉には、この年齢まで生きられたからこその人生の深みや重み、いろいろな芸術的な感性や死と向き合っていくような人生観が詰まっています。篠田さんの100年を超える長い人生を通して、まだ経験できていない未知の世界にしっかりと書道も絡めながら、自分の今後の人生をさらに想像させてくれるような言葉たち。本を読み終えるたびに書に対しての想いや今後の人生のあり方について、見つめ直すきっかけをくれる存在です」

「一部の書籍では、生前に愛用されていた日用品も紹介されています。これまで私は書道をがむしゃらに追求してきて、食事をとる余裕があったら書の制作に費やしたいと思っていたのですが、篠田さんの暮らしぶりに影響されて生活を少しずつ変えるようになりました。例えば、篠田さんが大切に使われていた漆の器があるのですが、私も友人の作家が作っている漆のお椀を購入して、丁寧に食事の時間に向き合ってみたり。日用品を長く愛せるものに変えるだけで暮らしに余白が生まれて、こんなにもおいしさや喜びを感じることができるんだと感動しました」

左から『これでおしまい』(講談社)、『桃紅一〇五歳好きなものと生きる』(世界文化社)、『私の体が亡くなっても私の作品は生き続ける』(講談社)。

 最後に、中さんの作品の楽しみ方や今後の活動を通じて届けたい想いについても教えてもらった。
「私が書の表現で大切にしていることは、余白や間の使い方といった日本ならではの文化を落とし込むこと。書にはいろいろな考え方がありますが、白い和紙に黒の墨を入れることで、いかに白の世界を際立たせるかという視点もあって、そういった余白を観ることで心に余裕が生まれたり、暮らしが豊かになる一助になれたらいいなと思っています。今後は書道をもっと多くの方にカジュアルに楽しんでいただけたら嬉しいですね。そのためにも、まずは皆さんに書に触れてもらうきっかけを作っていきたい。また、日本を代表する伝統文化として海外の方にも知ってほしいと思っていて、現代のカルチャーとミックスさせて、もっと世界に作品を発信していきたいです」

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