INDEPENDENT GIRL
at FLORIST 2/3
CHIEMI WAKAI
Jul 10, 2020 / CULTURE
ギフトだけではなく、
もっと自分のために
お花を求める人が増えてほしい。
自分のスタイルや気分を大切にしながら日々を過ごす、“INDEPENDENT GIRL”な女性をピックアップする本企画。今月は“NATURE”をテーマに、暮らしを彩る植物を提案するフローリスト3名にインタビュー。2人目はアーティスティックなアレンジメントで高い支持を得る、[duft]のフラワーアーティスト・若井ちえみさんが登場。お客様や生産者のことを最優先に考える姿勢から垣間見える仕事への真摯な取り組みや、作品制作時のインスピレーションの源までお話を伺いました。
PHOTO_Ryo Sato(TRYOUT)
TEXT_Yoshio Horikawa(PERK)
EDIT_Hitomi Teraoka(PERK)
PROFILE
CHIEMI WAKAI
――まずは今のお仕事を始められたきっかけを教えてください。
地元・北海道の美容専門学校に通い、卒業後は美容師として働いていたのですが、すぐに挫折してしまって……。それでも当時は「やりたいことを仕事にしたい!」と執着していたんでしょうね。まずは将来のために3年間お金を貯めることを心に決めて、アルバイトを3つほど掛け持ちしていました。そのなかの一つがお花屋さんだったんです。特に決定的な理由があったわけではなかったんですけど、直感で「お花屋さんだったら長く続けられる!」と感じ、お花屋さんへの道を歩むことにしました。
――お花屋さんでの仕事にやりがいを見出されたのですね。
そうですね。幼い頃からモノづくりも好きで。好きな接客をしながら、お花の色や形を活かして、お客さまの要望に合わせて作っていくことが楽しく思えました。あと、当時働いていたお店で観葉植物のお世話を担当していたのですが、毎日水やりをしながら植物が成長していく過程を見るのがすごく嬉しくて。それもきっかけになり、徐々に植物の魅力に惹かれていきました。
――[duft]はどのようなコンセプトで立ち上げられたのですか?
バシッと“これがコンセプトです”とかっこよく言えるものがなくて……(笑)。自分が花に携わるようになってすごく感じたのですが、部屋に一輪の花があるだけで空間全体の雰囲気や空気が変わるということ。たった一輪なのに、すごく心地よい空気になると思います。その感覚を皆さんにも体験していただきたくて。今でこそ気軽にお花を買ってくださる人が増えていると思いますが、私がアルバイトをしていた当時はそういう方も少なかった気がします。大切な人へのプレゼントだけではなく、もっと自分のために花を求めてくれる人が増えてくれたらいいなという気持ちを今も持ちながらお店を続けています。
――今回の外出自粛要請で、お仕事に変化はありましたか?
店頭でのお花の販売のほかに、ウェディングの装飾や店舗のディスプレイ、撮影のお仕事もいただいていましたが、それらがすべて中止や延期になってしまいました。あと、うちのお店はすごく狭くて密になりやすく、遠方から足を運んでくださる方もいらっしゃいましたので、このまま営業してもお客様に不安を与えてしまうだけだと思い、早い段階で店舗営業はお休みすることに決めました。その代わり、今までお店に来ていただいていたお客さまに変わらずお花を楽しんでいただきたいと思い、自宅用のお花の配送サービスを始めたのですが、それが毎日手いっぱいになるぐらい予想以上の反響をいただいて。生産者さんからお花のロスがすごく出ているという話を聞いていて、少しでも仕入れを続けたいと思っていたので、とてもありがたいことでした。
――なるほど。生産者の方にも大きな影響が出ている状況なんですね……。
昨年、千葉県を襲った台風の影響でお花の生産者さんが被害に遭われて、廃業を余儀 なくされた方々がいるということを思い出して、今回の非常事態でも同じことが起こるかもしれない、と思いました。小さな規模の個人店では、仕入れられる数も本当にわずかですが、少しでも力になれたらよいなと、流通はストップさせないよう配送サービス だけは続けていこうと決心しました。
――お花の配送はアレンジメントなどを主とされていたのですか?
店頭で日常的にご自宅用に買って行ってくださるお客さまを考えると、飾るのはこちらの都合で作った華やかなブーケではなく、お花数本だな、と。それで思いついたのが、自宅の花瓶サイズに合わせた切り花の配送サービスでした。
――お客様にとって嬉しいアイデアですね。
直接お会いできないので不安はありましたが、一人一人の花瓶の写真を見ながらイメージを膨らませてセレクトしました。できる限り通常の接客の延長線としてやりたかったので、お花の管理方法、花の名前、特徴であったり、私自身が可愛いと感じるポイントであったり(笑)、一言メッセージを手書きで添えた手紙を一緒にお送りしていました。
――一人ひとりのお客様と、会うことが叶わないなかでの心遣いを感じます。作品のお話も伺いたいのですが、若井さんの作品を拝見すると、お花同士の色合わせやアート性の高さが特徴的だなと感じているのですが、そういった感覚は幼い頃から培われてきたものなのですか?
モノづくりや絵を描くことは子供の頃から好きでしたが、お花に関するスキルなどを育んだのは、北海道でお花屋さんのアルバイトを始めた時からです。当初はとにかく教わったことを一つずつ身につけていくことだけで精一杯で……。お花の組み合わせなんて考える余裕もなかった気がします。その後上京して、独立する前に最後に勤めたお店では、今まで務めた花屋では見られなかった独自の世界観を生み出すオーナーに出会いました。尊敬していたこともあり、認められたくて作品をひたすら模範していました。なので、独立したてのときは、オーナーの二番煎じのようなことしかできない自分に悔しさがとてもありましたね。そこからずっと「[duft]らしさとは何なのか」ということに向き合い続けてきて、今ここに辿り着いた着いたのかなと思っています。お花の魅力を最大限に活かし、お客さまに満足してもらいながら、誰もがつくれるもの ではなく、私しかつくれないものをつくりたいという想いは強いですね。今それができているかどうかはわかりませんが、これまでの私自身の経験が[duft]の個性になっているはずです。
――今の若井さんの作品づくりや空間演出のインスピレーションの源は何ですか?
[duft]の店舗設計に携わったのがきっかけで、建築に興味を持つようになりました。元々美術館の空気がすごく好きで、花屋だけどそんな空気感の空間にしたいなと思い。ナチュラルで有機的なお花と無機質なスペースとのバランスを考えたお店の空間をすごく大切にしています。作るお花にも、その思いが出ているのかもしれません。ですが、花束も空間演出もお客様がいて完成するものなので、しっかりお話を伺ってその都度一から考えることを大切にしています。花が主役ではなく、その背景が大切だな、と。なので自分の好きなものだけではなく、いろんな提案や共感ができるよう、できる限り幅広く興味を持ち続けたいと思っていますね。
――好きな建築やアーティストは?
建築でいえば、ドイツのバウハウス・デッサウ校が好きです。その建築に携わった 人やルーツのある人のことをいろいろ調べたりもしました。写真集を集めるのが趣味ですね。アートに関しては、特定のアーティストが好きというわけではなく、ひと目見ただけでは意味が理解できないような現代アートにが好きです(笑)。簡単に誰しもが美しいと感じるわけではない、何でこういう表現になったんだろう? でもパワーは確かに伝わってくる。そんなアートに魅力を感じます。
――店内のインテリアもとても素敵ですね。
ありがとうございます。店内はお客様が目にする場所であり、自分自身も1日のうち最も長くいる場所なので、流行に流されず、長く愛せる空間にしたくて、内装には細部まで私の好きなものが詰まっています。目立つものではないのですが、コンセントやスイッチ、入り口のベル、照明をドイツ製のものを取り入れるなど、 一つひとつにもこだわりました。ただ、こだわりを追求するあまり、海外用変圧プラ グをコンセントに繋がないと電気が使えなくて(笑)。でも、この空間を本当に気に入っていて、[duft]らしさを表現するディテールの一つだと思っています。
――店内には魅力的な花瓶もたくさんありますが、花瓶をセレクトする際の好みはありますか?
陶器やガラスといった素材、作家なども選り好みはなく、割と幅広くどの花瓶もお気に入りです。統一感を持たせて1種類でまとめるより、花と一緒でそれぞれの色や質感の花瓶を活かして楽しみたいタイプなので、数本飾るだけなのに、幾つもの花瓶を使ったりします。部屋に、個性的な花瓶や花を飾ると浮いているように感じることがあるかもしれませんが、いろんな質感の器を混ぜて置いてみると意外と馴染んだりしますよ。難しそうなのでまずは透明の器から……と言われる方も多いのですが、色や形に特徴がある花瓶に入れることで、1本のお花の美しさがより引き立って見えたりなど、表現の面白さがあります。
――お気に入りの花瓶だと、飾ること自体もより一層楽しめそうですね。
そうですね。実はお客様からは、花瓶を持っていない、飾り方がわからないというお悩みの声も意外と多いんですよ。そういった声も踏まえて、初めての方にはどんな花瓶がいいか一緒に考えたり、お花を選んでもらう時はまず、ご自宅にどんな花瓶があるのかをお聞きして、雰囲気に合うお花をおすすめしています。そういうちょっとした会話や心配りを大切にすることで、もっとお花を楽しんでもらえたらと思うんです。
――ご自身ではお花をどのように楽しまれていますか?
一輪の時もあれば、たくさん飾る時もあり、その日の気分で楽しんでいます。市場で ひと目惚れして仕入れたものをお家に飾ることもありますよ。あと、販売用のお花はしっかりと温度管理していて、温度が違うお客さまの自宅で飾るとどれくらいの期間で枯れてしまうのか、初めて仕入れるお花はわかなかったりするので、実験を兼ねて自宅に飾ったりもします。お花の“持ち”がすべてではないですが、まだお花の扱いに慣れていらっしゃらない方が、早く枯れてしまうお花ばかりだと飾る習慣になりにくいかなと思うので、なるべく長持ちするお花をおすすめしています。
――お仕事で身につける服装や道具にこだわりはありますか?
アルバイトで勤めていた頃、エプロンを着けていたこともありましたが、独立してからは自分が着たいと思うものを身につけています。身につけている自分やスタッフの立ち姿もお店の印象につながると思うのと、もし私がお客さんだったら、やっぱり「この人素敵だな」と思う人にお願いしたいので、そう思ってもらえるように努力していきたいですね。道具に関しては、今使っているのは花の市場 で購入したハサミです。これは自分の手のサイズにすごくフィットして使いやすくて。材質や重さなどによって価格が変わって きます。ある程度重たいほうが固い枝なども切りやすいんですよ。
――今日の服装も素敵ですが、毎日のファッションのこだわりはありますか?
ありがとうございます(笑)。上京したばかりの頃はただのジャガイモ娘で(笑)、今も勉強中です。知り合った人たちにいい刺激をもらいながら、身につける服の幅が広がっていきましたね。あまりとらわれず、さまざまな色やフォルムのお花を好んで組み合わせるようになったのも、ファッションの幅が広がったことはきっ かけの一つだと思います。古着が好きで、なかでも下北沢にある[カルマ]というショップがお気に入り。花材の生け込みに行っているお店でもあるんですが、そこに通い始めてファッションの幅もより広がったように感じています。
――アクセサリーはどれも目を引くものばかりですね。
今日、両手首につけているブレスレットは[カルマ]で買ったヴィンテージのものです。右手中指のリングは「モニカ・カスティリオーニ」というイタリアのジュエリーブランドのもの。ネックレスはプレゼントでいただいた「エルメス」。耳元は、お客様 がつくられているブランド[CINVI]のイヤーカフ。私、耳たぶが薄くてほかのブランドのものだとすぐに外れてしまうんですけど、ここのものは開閉式になっていてしっかりとホールドしてくれるので、安心してつけられます。肌が弱いのと、疲れているとすぐに金属アレルギーを起こしてしまうのでピアスはつけていません。
――それでは最後に、今後取り組んでいきたいことを教えてください。
お店を拡大したいとか、そんな大きな野望はなくて(笑)。今はお花の管理もメール対応もすべて自分一人で切り盛りしているので、細く長く続けていくのが目標です。 多分そのほうが私の性に合っていると思います。少なくとも、ガンガン売ってバリバリ稼ぐ経営者タイプではなくて……。こういう性格なので、できるだけ多くのお客様と接しながら、できるだけ長く続けていけたらいいと思っています。ただ、働いてい る時間がかなり長めなので、仕事以外の大切なことにも、もう少し目を向けられる生活をしていきたいと思っています。お客様とともに楽しみな がらも、自分に合ったペースを模索していくことが今後の課題ですね。
INDEPENDENT GIRL with
duft
くすんだ色合いと毒っぽさが可愛いユリ、UFOみたいなエキナセア、ミステリアスでいてモダンなアンスリウムなど、年代や素材、国などにとらわれず、可愛らしさや美しさ、興味を持ったお花と花瓶を組み合わせました。“INDEPENDENT GIRL”というと、自分らしいものの選び方を知っている人というイメージがあるので、自分の直感を信じて好きなものを自由に選ぶスタイルを提案しました。このまま1輪ずつ分けて飾ってもいいですし、全体で一つの画として楽しんでいただけます。
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